かたまり
塊の中でうじゃうじゃ揺らめいて、はみ出した一人だけを踏み潰して、血が飛び散って、ぺちゃんこになってそこには何もなくなる。
こんな世界どうかな?
こうちゃうが笑いながら、聞いてくる。世界のことなんて、なんにも分からないまだ子供なのに。そして私は世界のことなんてなんにもまだ分からない大人だから、私の中での正解しか返すことができない。
「今、もうそんな感じだと思うよ。
私は、はみ出した人間かなあ?だとしたらそろそろ潰されちゃうかも。」
笑いながらそう返すと、こうちゃんは少し嬉しそうにした。
「そう思うよね?僕も今世界はそうだと思うんだあ。僕の知ってる世界は。」
「こうちゃんは、塊の人?それともはみ出して、飛び出しちゃう?」
「はみ出して、潰されないようよけて、そんで、いっこの目印になる。」
「え、ずるい。なんか1人だけ特別じゃない?」
私が笑うと、こうちゃんはブランコからポンっと降りてきた。
「姉ちゃんを守れるよ、そしたら。姉ちゃんのいっこの目印になるよ。」
「ふーん。」
なんだか照れくさかった。こうちゃんがそんな風に、大人みたいに話すなんて、まだ子供なのに。
「こうちゃん、もう帰ろうよ。暗いから。」
「今の、本当だよ。僕、絶対目印になるよ。」
こうちゃんの手は、暖かかった。帰り道、いつもよりこうちゃんの歌声が大きく聞こえた。
「ただいま」
こうちゃんの手をぎゅっと握った。
靴が無造作に散らばっていた。何の物音もしなくて、静かだった。昨日と何も変わらない、部屋。
干しっぱなしの洗濯物。洗いかけのお皿。
いつも誰かがしてくれるなんて、思ってた訳じゃないけど、でも実際は思ってたんだって。
だから、いつまで経っても洗いものは無くならないんだ。
こうちゃん、本当にはみ出しても生きていけるのかな?
本当に、私達ははみ出せるのかな?
もし、神様がいるなら、私はなんでもするよ。
こうちゃん、大きな塊に飲み込まれた方が幸せってこともあるかもしれないよ。
そう言いかけて、こうちゃんの横顔を見てやめたんだ。
瞳の奥が、真っ黒で、強かったんだ。
こうちゃん、私より背が低いはずなのになんだか今日は誰よりも大きく見えるな。
かたまり