⬛︎朗読詩「夜の翼」
数センチの隙間から見る世界は、私にとって
とても、それは、とても薄明のような光景で
時折過ぎてゆく、子ども達の声が不思議と、
風船を飲み込んだようなこの喉に響くのだ。
枕元には、しばらく漂っていた私の咳が
しぼんだままの身体で着地している
そうして、そいつを撫でることで
私はようやく思い出すのだ
* *
庭の鯉は手を二回叩くと顔をみせるよ
あの大きな桜の木のしたには、ミイコが眠っているから絶対に切っちゃだめ
私の痰壺は洗わなくていいよ
あなたまで、夜の翼になってしまったら
私、いやだもの
* * *
硬くなっていく指先のそのさきで、
秋口のにおいをそのままに鶴を折ることも
いまはただ難しい。
遠いところから聞こえていたリコーダーの音色も
いまではもっと遠いところから聞こえる
夜汽車の汽笛ほどにもならない
私のからだを摩るひとはいない
ただ、かわりに私がやつのからだを撫でている。
焼ける。
*
数センチの隙間から見る世界は、私にとって
とても、それは、とても薄明のような光景で
時折過ぎてゆく、子ども達の声が不思議と、
風船を飲み込んだようなこの喉に響くのだ。
枕元には、しばらく漂っていた私の咳が
しぼんだままの身体で着地している
そうして、そいつを撫でることで
私はようやく思い出すのだ
あしたの午後にはきっとあめが降ることも
ふすまのほんのすきまから
見えるただすこしの雲で
わかるのだから。
枕元には、しばらく漂っていた私の咳が
しぼんだままの身体で着地している
私の痰壺は、洗わなくていいよ。
私が夜にとけるまでは。
⬛︎朗読詩「夜の翼」