解放

渡逢 遥

しらないうちに死んでいたいの。みえない誰かの華奢な掌に、白磁の頸をやさしくつつまれて、そしてそのまま絞めつけられて、緩慢とまぶたをとじて睡るように。だれかの姿が脳裏をよぎる。だれかのことばが耳をかすめる。そのだれかがだれなのか判らないまま、わたしもじぶんのことがだれなのかだんだん判らなくなる。律動が乱れる。波濤に呑まれる。半機械的に繰り返される、壊死、剥離、再生。先に再生が出来なくなる。やがて静かな洞になる。空の実が弾ける。頭上を漂うことばはあらゆる意味を闇に奪われ、ただの虚しい音になり、ただの虚しい谺に還る。無から孵るものがないのとおなじように、死から新芽が吹き出すこともない。肉体を終焉に抛つことは、永遠そのものになること。そう信じていた。わたしは永遠に憧れていた。あらゆる呪縛が忌々しくて、せめて心だけでも無機質にできたらいいのにと思った。痛みが怖くて、寂しくて、死ぬほど憎い。優しさとおなじだと思う。優しさと、痛み。わたしはただひとりで連綿と感情を吐き出す。虚空に放つ。声にならない声で。真実になりきれなかった嘘で。すべてを曝け出すこととすべてを隠して生きることのなにがちがうんだろう。外に放った自分がだれかに殺されるくらいなら、わたしはわたしだけが理解者になることを約束してどこにもわたしを曝さない。滔々と本音を、真実をぶつければ赦されるとは思わないから。ゆっくりとまぶたをあける。頸まわりに痣が残っている。また永遠になれなかった。

解放

解放

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-06-24

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