泡になる

泡になる

――人魚姫が鰓呼吸か肺呼吸か。たぶん、どっちもできないんじゃないか。だから、海で生きてるくせにわざわざ海面から顔を出すんだろ。そんで、海が嫌になるけど、船に飛び込めないだろ。水圧、どうなるのかね。ブロブフィッシュみたいに、グロい見た目を出すのかね。いやいや、でも、王子様が言ってた。彼女はとっても美しい。じゃあ、あれだ。海の中にいるとき、からだ全体がしぼんでいるんだ。ナイフ、踏むような痛みで陸を歩いたね。わざわざご苦労なことだって最初は思ってたけど、そうでもないだろうな。海の中でもきっと、彼女は生きづらかったさ――

深海には夢がある。重油みたいにだるい。夢が重油みたいにだるい。あけがたも夜もないなら、きっと宿題もない。ぼくとおなじように沈んでいく誰かを見つけて、「やあ」って言うけど、きっとそのころにはからだの概念がなくなっている。電子と原子核のあいだが真空だって、どうにも信じられなかったこないだのテスト、ふたたび。生命のスープとか、ビシソワーズとか、そういうのものでいいから。なんて考えてるあたり、人間はどろどろの脳に支配されている。脳もヘドロみたいに煮立っていつかは泡になる。そうすればぼくは、ずっと空の青ばっかり考えているぼくになって、十億年後にはそんな自分がくだらないとか思うんだろうけど、果たして深海に十億年はあるだろうか? 海と地殻の相中で、固体と液体の違いをあほらしいとかあほらしくないとか、一人で議論していたら眠くなる。よく眠り、夢を切り取れば地球が腐る。腐った地球は、泡になる。そういうことで、おやすみなさい。

泡になる

泡になる

おやすみなさい。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-06-23

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