壁の向こうの歌声
起きたら誰もいなかった。狭い部屋のなかに1人きりだった。無空間のそこは一瞬でわたしを物凄く孤独にさせた。
薄汚れたホワイトのワンピースがひらりと揺れた。何処からか隙間風が流れてきてるようだった。それでも何も無いこの真っ白な空間にわたしは座り込んだ。両足を抱えてうずくまった。
どのくらい時間が経ったんだろう。体が痛くなってきた時、壁の向こう側から音が聞こえた。
リズムが跳ねる音、軽やかな人の声、冷たいコンクリートに吸い寄せられて耳を澄ますと透き通った風が私を通り抜けた。
何時間もずっとそこにいた。ずっと耳を押し当てて彼女の歌声を一つも逃さないように聞いた。彼女はどこにいるんだろう?彼女に会いたい。どうしたらそこに行けるんだろう?もう少しでここの壁は動くの?
わたしはずっとその時を待ち続けた。彼女の側に行けると信じて必死に耐えた。
ずっとずっと耐えた。ずっと耐えた。
壁の向こうの歌声