小説「一度、あきらめた場所で」第2部

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小説「一度、あきらめた場所で」第2部
  1. 第9声「“T”さんへ」
  2. 第10声「生きたい。」
  3. 第11声「再会の可能性」
  4. 第12声「札幌」
  5. 第13声「貸本屋の店主さん」
  6. 第14声「誰かの面影」

第9声「“T”さんへ」

 
  “Y.Y”の描き欠けた小説

        以下は、彼の創作ノートに書かれたものである。


 
これは、小説の冒頭に(Tさんへ 誠実さ…約束、弁明)


“T”さんへ

引き戸に閉まった、かつての想い出たちは
頭の中で反芻する

後悔があり、未練があり、可能性があり…
いつか、衛生から覗き見されて
視界がデータに保存される
でも、
僕が感じ取り、言葉に綴ろうと、選んだもの
それは、ユートピア
何かを欠いた、情景かもしれない
だけど、
言葉に遺そうと、決めたもの

視えるなら
「今の僕」が視えるなら


あなたへの長らくの不通
それは、自分の自信につまずいたからです
何らかの形で、それを表明しなければと思っていました
不親切な終わり方を避けるために
その弁明が、これです

どうやら僕は…表ではなく、裏で

それは、多くの人と同じように

無名の探求者で終わるように思います

一般的な、人生が待っています

普通に働く、会社に帰属した、その一人です

僕は、普通の人生を歩みながら、表と裏の二面性で

その行き来で、倦まれることを

表現するだけなのかもしれません


それは、人生の上では、避けられません

感じ取る、遺す、発見する活き方
それだけが

だけど、まだ僕は、何か、自分にしかない何かを信じ、

そして、まだ確信があり、

自分が感じたその何かを誰かにも伝えられると

それも信じています

そして、それは、誰かから

ひょっとしたら、僕が好んだ詩人やら誰か過去の

誰かの取り組みの延長を受け継いで、その役目で

結実させる機会のように

それも信じています

夢は、だから、あるのです。

自分に何かが託されていると、

震災後に生き残った僕たちは、そう思うことができるんじゃないだろうか?

第10声「生きたい。」

『生きたい。』

ふいに目が覚めて、彼の頭に浮かび、口に出していた言葉。

28歳。友達と、夢と、希望…それらを失った日常からこの物語は始まる。


彼女が生きる世界を選ばずに(彼女と活きる世界を選べずに)、引き裂かれた孤独者の生命線上。
彼はそこでも彼女の面影を視るのか…? 
それとも…生命を満たす、その気後れがあるのか…?

「どうか僕を、まともな人間にして下さい。」
ある段階で彼の思考は困難なものになった。
日常的な言葉を使うのが滑稽で、面倒で…コミュニケーションをする姿勢、それが欠けていった。
言葉を口に出すことが億劫になってゆく。
これは精神的な治療が必要なのかもしれない。
だが、それにより何かが失われることを感覚していた。
彼はフツウの人間的な『ニンゲン』で居ることを少しずつ諦め始めた。
ある思考の欠如。
ある意思表明による放棄。
最早、後戻りの出来ない段階に自分が来ているのだと…
そして、この足取りを完了させる他は、活きる余地がないことに。
 『ニンゲン』の統合は過剰な分裂により苛まれ、習慣的な回路は途切れだし、
直感的な回路が彼を繋ぎ留める。

僕は、これ以上の意識が続かないことを確認し、眠りに就いたーー

(これは、彼が活きる地を発見するまでの物語)

それは膨大な時間に埋もれている。何か…資料を探さねば


まだ出逢ったことのないタイプの人間ーーというよりは、

僕が現に、『好みであるタイプの人』ではなくーー僕が現時点では、
《好みに挙げていないタイプの人》を好きになる。
ということ、それはーー

それは、自分が選り好む傾向を脱する、脱皮の、手の届き、伸ばしーーである。
 これまでの人生で、そのタイプを見たことはあるのかもしれない。
おそらく…有ったのだろう。
だが、近づくことが出来なかったひと。
すれ違い続けたタイプのひと。
そのひとに『出逢う』というよりは、はっきりと、そのひとに接近しーー《身に覚える》ということ。
狭き門を作るわけだが…それは現在から、一点に注がれる、絞り込まれた投射であるーー


その場に馴染もうとするための演技がある。失敗した。まあ…いいんだ。


 この世界に愛着を持つこと。
それが欠けているし、足りないし…僕に必要な事のように感じた。
 僕の共有の目的は、共感とか、共鳴とか、共震だとか、なんだか知らないが、その人が持つ最良の部分。
その人が持つ、おそらく専門的に知る分野での精通した理解。
それは高い専門性なのかもしれない。
僕が求める共有はそういう部分。
ぶぶん。同じ分野でなくとも、コンタクト出来るやり方。
それをその人の核として視ること。
人間性ではない。人格ではない…。?
 我慢や忍耐の為に生まれてきた御人よ。
通過を待つ人の群れ。乗り入れられた御人よ。
それは拷問ではないのか? 長生き、それは拷問ではないのか?

 彼は世間との繋がりを途切れさせてゆく。
やはり振る舞うことが困難であると、彼は思う。
取り繕えた仮面を付けて振る舞い、演じる。
段々…、可笑しくなってゆく。
仮面が合わなくなってゆく。
仮面が合わなくなり、保てなくなる。
適応できない、吐き出しの、剥き出しの顔…それ以外では…。呼吸することが無理だと、彼は自分自身との追求以外、それ以外を遮断する。
自分が果たすべき役割なのだと。これが。
 
頭に入れることが病める。世俗的な話題や、社会問題。
それらに目を向けることが病める。だから、密かに、呼吸する。
ただ ひとつの 抜け道に

 重ねたい 重ね合わせたい  


 久しぶりにお香を薫いた。

わざわざ取り寄せて買っているお気に入りの品。
ある懐かしさが香りに含まれている。
その香りには、僕がある時期に関わった人たちの面影が漂う。
その空気が部屋のなか、頭のなかの吹き抜けを漂う。

 一旦、外に出てみようと、誘う。

 僕はきみとふわふわ漂っていたい。

 きみを愛して、共に居る。

 その事実、それでじゅうぶん。

 かつて僕を好きになってくれたその事実、それでじゅうぶん、いっぱいだよ。
 

 愛はまた、人を孤独に気づかせた。
 独りが漂う。
 ふたりで物語は完結しないのだ。
 愛は束の間でも、信じられるということ。
 信じられたということ。
 その事実、それでじゅうぶんな事。
 そこに行けば君に会えるかもしれない。
 どうして僕はまたそうして君を巻き込もうとするのだろう? 
 だが、夢にも現れなくなった。
 昨日、ぼくは夢精した。
 それはきみじゃない。
 違う。
 遠い


 この物語はまだ続きそうだけれど。

 人に信頼されるのが恐くなった。
 人に信じられるのが、恐い。
 この距離なら、間違えないと思う。
 だけど僕はまた人を曇らせた。
 

 打ち鳴らせ、孤独を
 夜景に溶かそう
 焼き尽くせ、業火で
 骨まで炭色に
 

 重荷。
 つまり、その人を引き受ける、その重荷が恐いんだ。
 君は代われたの? 誰かと。
 僕は繰り返してる? 
 これを掘り進めてきた。
 この距離なら大丈夫だと思って、夜を押し進めるよ。
 これで本当に人を導かねばならない、責任。本当の人に生りなさい。
 その《詩》で、その《言葉》で、嘘の人に生ってはならない。

 あなたのテクストで
 あなたの核心、追究で
 嘘に負けちゃいけない
 嘘に勝ちなさい
 本当に生りなさい
 本当に至りなさい

 忘れないで、あなたを信じたひとが居る。その事実。

 自分を尽くせ
 自分を尽くして
 導きなさい
 
 僕は吐血するかもしれない。
 それよりも、僕自身が幸せに至ることが誰かのための幸せを導くのだろうか?
 どんな幸せだろうか? 僕の人生から導かれる核心に至りたい。
 その一心。


 光の中で楽しみ
 闇を避ける

 僕は違うんだ、

 光から闇を視て
 闇から光を捜し出す

 それがこのやり方なんだ。
 幸せに成り立つ方法なのか分からない。
 結局は核心への追究で…。
 そうなると、人を人生から死なせない。
 人を人生から諦めさせない。
 人を人生それ自体の核心に導くことが使命だろうか?

 
「昔の面影あるね。」

 何ともなしに、しみじみと、そんなことを言われたら…泣きたくなるよ。
 とても嬉しかった。

 幼い頃、とても小さな頃に居たひと。
 それはその人自身が過去を懐かしむように過去を確かめた、美化する想いかもしれない。
 過去の自分を確かなものにするように、記憶のスレを照応するかのように…。
 「僕は確かにそこに居たのですね。」
 幼い頃の面影が他人の中で生きていた。


「君は、物語を書こうとしているのではないね…。君が書こうと、描こうとしているのは…読者の現実に反映する装置だ。それは誘導する手段としての…」
「違う!…いや、違う。僕は…」
  
「もろに、社会に呑み込まれた中で、夢のような環境ではない、現実のつらさの中で、活きる。それを選ぶんだよ。自由人ではない、リアリスティックな文体を持った表現者としてね。だから、僕のこの最低賃金な現状は必要な道具さ。そして武器。そして…勇気さ。この時代だからこその、この国、地域、場所に産まれたからこその体験、その典型から描いた、詩…。だから、だから…ただ、生きて、活きる、その生命の活動と結びついている。」
 
「この時代。この場所に居て味わう苦難に、高潔さを奪われずに生きる。」 

第11声「再会の可能性」

源泉からの新たな流れが遣ってくる。
川の濁りを力強く押し流してゆく、新たな流水。
清らかな川をまた…汚すだろうか? 
押し流された濁りは熱で過ちを渇かしてしまう。
死は力強く川を押し流してゆくーー積み上げられた石を視て、踏んで歩く。
輝きを放つ石は唯、ひとつ…。

 “世間に於いて、恥ずかしいとされてきた言動が崩れ始めた。

オタクたちの領域に一般人は入り出し。子どもっぽさ。その未成熟な領域を受け入れる文化に気が流れている。これは個人主義の弊害か? 進歩を強要し、追従することを強いる社会構造に耐えることが出来なくなってきた兆候なのでは? その子どもっぽさは《良し》と云えるのか? 個人主義からの流水が僕らの世代の足下を浸す”○○新聞 2012年7月31日 コラム
 


「………手漕ぎボートの世界選手権だな。」

僕らの世代は、耐えられなくなったことの清算に費やされる。というか、代償。
世紀末を終えた頃、物事の崩れの中では、子ども時代に退行するのが、唯一の避難所。
僕は、逃げ場を求めているのかな?
いや、何か、価値ある事を求めている。


難波船に乗って 舵をとれ
セイレンの謳いに耳を傾け… 
聴き分けなければ紙一重を
いつの間にか船が水に侵され 大勢の船は沈む

「これは寓話だよ。手漕ぎのあんたは勇敢だ。海に漕ぎ出したあんたは勇敢だ。だが…孤独だ。」
「心はもう…調(ととの)ったのかい?」
「どうか、忘れないで…」呼び止める声。
「どうか、忘れないで…」引き戻す声。
「どうか、どうか…」尾を引く声。
 そうして必死に見送ったあの人

港を去る後ろ姿のボート。また未来へ漕いで、瞬間の留まりを跡にして。そうして彼女は部屋を跡にした。

「心はもう、調ったのかい?」
脳裏で響く音量にはきっと適わない。
頭のなかではもっと、大きい。
現実に起きた音よりも。脳裏で崩れた音量には、適わない。
脳裏では、常により大きく、響いている。記憶として。


 一度、離れてしまった人と再び会うことで、何か自分に動くものはあるのだろうか? 
 そう思って、僕は動き始めた。自分の範囲を自分の価値観に添う人間としか話さない可能性ではなくて。


でも、このやり取りは考えさせられるものがあったから、もう十分だよ。ありがとう。
ただ、この気持ちは君が問いかけた「自分らしく生きる」という、そう、前向きな考えからだよ。
だから、きみは人を馬鹿にしています。
きみは他人が自分の価値観に合うように人の特性を引き下げれば話し応じるという権力的な振る舞いが得意になられている。
「聞いてさしあげましょう」という一段高い場所から見下ろしたね。
先に話しを持ち出した側が不利だよ。
過去の出来事がやはり良くなかったんだね。
僕はこんな離れた人と『再び、会う』ということの可能性。
それによる、可能性。その意義?
かつて、親しかった人と…再び、会うことによる意義。
何かを確かめるように…?
何か動くものがあるのかを…? 
その再び会ってみようと、ふと思う衝動。
やはり距離なのかな? 
隔てた距離感、それ故に真実味を帯びるのかな? 
離れているからこその芽生えが、掛け替えなさが、ひしひしと…切々と、なぜ?
それは、ただの話しの切り口に過ぎないのに…。
だとしたら、現実は? 
現実で、日常で、関わる人たちは近さ故に、視えなくなる部分だろうか?
なぜ、再会しようとするのか? 
期待があるのか? 
再生であるのか? 
人と会うことの期待とは何か? 
再会の可能性は?

第12声「札幌」

また、現状を変えようとし、今度はギターを手に取る。

独学で(友人に音楽理論の基礎を少し教わってから)
2年半ほど続けてきたギターでの創作活動。
何か、土台を失った…
いや、自分の独立独歩での追究が、あれで終わったのだと感じた
今の僕はこれまでの自分の作風に、既存の体系的な技術を取り入れてゆく必要を感じていた。

自分自身への「こだわり」が、「普通」の事を、拒絶していたから。
自分のやり方でしか、方法を持っていないから。
自分の範囲でしか、表現にならないから。
だから、「ギター」を通じて、新たな「自分」の基礎を習得してゆく

それで、インターネットで探り当てた、自分の妥協範囲に当てはまること。

前進の為に、とりあえずの綱として、申し込んで投げ掛けた、ジャズギター教室の体験教室。
道内唯一?の、アメリカの有名な音楽大学卒業者が居て、
基礎的なことを本格的に、きちんとした教育を受けた人から理論的に学んでゆきたいと思った僕には…
この人なら…と思って申し込んだ…はず…講師が退職したので…とのメールが入り…前日にドタキャンされた…また、

「何かをするための道を紡ぐ行為」は、切られて、振り出しに戻った。

そして

これまで創作の場に使用していた携帯ブログが、突然に運営会社の都合により大規模な改変が行われて、
ブログの見栄え、活用方法に打撃を与えられてしまい、そこでの更新を諦めた。

そこで、知り合ったひと、やり残したこと、土台がまた…崩れた 。

失ってゆく

居場所や

信頼や

可能性や

自信

閉ざされてゆく

塞がれてゆく

止められる


「僕はそれでも何かをしたい」

小説家の道を考えようか…?


その突然に改変が行われてしまった携帯ブログで、
ブックマークにしていた方の記事に「ポメラ」の紹介があった。
それは、文章を保存するのに便利な、携帯して持ち歩けて、ワープロみたいなもの。
以前にフリーライターの友人がそのようなものを使うと文章を書くのに便利だと言っていた事を思い出した。

迷った

何かを始めよう。何かに想いを定めてみよう。
すると、その想いを阻害する現実に、気持ちが萎えて、焦点が潰されてしまう事が続いている…

また…そうかもしれないと。

もしかしたら、これは病気で、手を広げようとし過ぎることの不安定な精神。
留まることの出来ない、止まることの出来ない、文明社会のような病気。

札幌へ高速バスに乗り、映画を観に行った。

「ファウスト」「アリラン」という映画を観ようと思った。

駅前にあるビッグカメラに立ち寄った。
5階建てのスペースに渡る店内の中で、店員の方に訊ねてみる億劫な感覚が駄目で…
自力で探し出そうと決めた。
見つけられるか不安だったのだが、あっさりと見つけられた。
「ポメラ」。
Amazonのレビューで、前もってどんな物なのか、どんな機能があるのか、どんな不便さがあるのか、
どのモデルが良いのか…?を勉強してきたので、ポメラのどれを買うのかはすぐに定められた。
本体の色が黒しか置いていなく、店内に見本として置かれていたブラウン系のボディのモデル
(といっても、液晶?パネル裏部分だけのブラウン)は取り寄せになると品台にある価格プレートに書かれてあった。

悩んだ…黒か…

いったん、ビッグカメラから出て映画観へ向かった。すこし考える時間が欲しかった。
映画観へ着くと、早く着いてしまったのだが、開始時間を勘違いしていたようで、思っていたよりも1時間後に上映される。
それまでの2時間半くらいの空白が空いた。
とりあえず映画観内の喫茶店で昼食を取り、そのまま居座るのも何だかで…近辺を探索してみようと考えた。

会計時、喫茶店の綺麗な目をした女性店員に、上映時間までの時間をつぶす…ために、
本屋が近辺にあるか訊ねると、すこし離れた場所にあるそうで、
近いところでは大通り公園駅の地下街に古本屋があると教えてくれた。
とりあえずそこへ向かうことにした。

地下街に入り、辺りを見渡しながら歩く。
ここはショッピングモールになっている。
人が絶えず通り、すれ違う。
僕はそれが息苦しい。
緊張感。
僕は自意識過剰に歩いている。

本屋を見つけるが、教えてくれた古本屋ではない。
地下街は広い…。
地上へ出る階段に向かった。
何かないかと探しながら歩く。
札幌は人が多い。
地元とは違う。
歩く。
また喫茶店へ?
いや、座り続けるのも疲れてしまう。
歩くことが気分を支える。
郊外の方へ出る勇気はない。
そこまでは歩けない。
周辺を、駅の方角への感覚を見失わないように意識しながら歩く。
生々しさが有る、現実の。
生活がある。
それぞれの。
札幌に住む人々の。
光景は眼に、映る。
ここは外国でない。
外国ではないが、自分が異邦人なんだ。
居場所はない。
若者は? 
路上に座るのか? 
喫茶店へ? 
お金が掛かる。
だから、路上に。
人々の息遣い。
だが、疲労の。
いや、高校生は覇気がある。
若いスーツを着た男たちは景色の中、慣れたみたいに。
路肩に停車するトラックからは荷物が出入りする。
今日の天気は曇りで、時々、ぽつりと降る。
気温はちょうど良く。

ひたすらに歩いた。

「何処か休める場所」を探し、歩くだけ、ただ、歩いただけ

立ち止まることが出来ずに、自分の居場所のなさを感じただけ

映画館はアーケード街に面し、
観念し、映画観に戻る。上映まで、まだ30分以上ある。
「ファウスト」は、時間的に都合が悪いのであきらめ。
「アリラン」を観た。

そこでは、かつての著名な映画監督が直面するスランプ…創作することへの葛藤。
失い、塞がれ、自信が揺らぎ、閉ざされた、その苦悩が、
僕の現状と重なり合ったようで、それは、ノンフィクションな出来事だった。

外は
雨と、風

夜の中へ入ってゆく

それは広がりではなく

だれか、仄暗い、小道 と言った

夜の中へ入ってゆく


帰りの高速バス。
携帯電話からAmazonのサイトにアクセスし、「ポメラ」を注文した。
誕生日に届く予定だ。
自分へのプレゼントになる。

雨と、風

帰り道なのか

次第に強く

雨と、風

打ち解け合い

だれか…仄暗い、小道 と言った

よるのなかへはいってゆく


そして、産まれた

 詩

空洞の連なり

反響となり、還り

夜の中へ

次第に

強く

打ち解け合う


雨と、風

互いに消し合う

よるのなかへ

誰か

仄暗い

小道

と言った


夜の中へ入ってゆく


そして、産まれた


 詩



     暗闇

僕は何か、狭い現実からの抜け道となる方向が、ただ…欲しい

第13声「貸本屋の店主さん」

 死


死が流行っている
もう他人事でない、死
身近な、死

子供の頃、当たり前に生きていた人たちが、死んでゆく

大人になり、知り合った人の、死
あの貸本屋の店主さんが、孤独死で逝った
身近な人づてに、その死を知った

あなたにインタビューした本の中で

「他人と共有するということ」というテーマ

その気持ちが、希求が、今も、僕にあるのだろうか…と


「共通の基盤を作らないと」とあなたは云った


だが、ますます自分本位になる僕(僕の嗜好)

そして、結局

あなたとも、最後には距離を作ってゆき

数ヶ月、会わずに

終わった


あなたと共有できたこと(ちあきあなみ・漫画・稲垣足穂)

それらを通して、その人を

知った

と思う

たぶん…ぼくのことも。


ぼくは、誰かに理解されているのだろうか?

僕の、確信や、ペルソナ、憂鬱、孤独

理解されたいのか分からずに

足跡を遺すだけ

あなたのインタビューを録音したファイルがICレコーダーに

声が遺り、雰囲気や面影

僕は、記録物を作っているだけじゃない

それらを通して、それらを媒介とした

何かが、出来ると

何かが、宿ると

何かが、


僕には、あなたと話したテーマが遺っている


 死


死が流行っている
もう他人事でない、死
身近な、死

子供の頃、当たり前に生きていた人たちが、死んでゆく


次々と、消えてゆく中で


あなたの死の中で、再会する

あなたの想い出の中で、再会する

第14声「誰かの面影」

秋空が

茜色に染まり

雨は遠のき

雲は一休み

秋空 この 茜色の 広がり

沈む前に 見せた

虹色の 気配

夕日が 

光に近づいてゆく

遠ざかり

触り損なう

秋空 この 茜色の 輝き

沈む前に 見せた

茜色の 広がり

沈む前に 瞬間 見せた

本当の さみしさ

秋空が

茜色に染まる

雨は遠のき

雲は一休みする

秋空のなか この、茜色

空の色が変わる

そのまえ

雲の形が だれか

だれかの面影が 昇ってゆく

かがやいて

小説「一度、あきらめた場所で」第2部

何を手に取り、どう生きるのか

小説「一度、あきらめた場所で」第2部

震災後 面影 ニンゲン 再会 シアターキノ アリラン ポメラ 貸本屋 ICレコーダー 秋空

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-06-19

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著作権法内での利用のみを許可します。

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