梅雨と紫陽花

爛れたところなんてとても見せられないのに
見せているところだけがわたしだと思われるのが酷く息苦しくて
矯飾だらけの廃れた部屋では
わたししか知らないわたしが 微かな悲鳴をあげていた
わたしが知らないだけであなたも
そんなにも生々しかったのね
優しさに怯える瞳に わたしはどう映っていたの
等身大のあなたの鏡は いったい誰を映しているの
ひとけのない下り坂でひとり 幼さを野ざらしにして
張りつめていた糸が切れるように 啜り泣くあなたを見たくなかった
わたしもあなたとおなじだということを わたしだけが知りたくなかった
やるせなさが滲んだ声は届かなくて
近かったはずの距離が一瞬で遠くなる
まだいかないで まだ まだ
扉にふたたび鍵がかかる前に 本当のふたりきりになりたかった
あのとき追いかけていなかったら わたしはいま 誰と話していたんだろう
雨上がりの並木道 ふと顔を見合わせて綻ぶようにわらう
濡れた紫陽花がわたしたちにそっくりだった

梅雨と紫陽花

梅雨と紫陽花

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-06-18

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