雨と三色菫
濡れた三色菫が綺麗だった
あらゆる日々が鮮烈さを失い残像になる
痣が疼いて仕方がないんだろう
わたしじゃないわたしにそう嘲られている気がした
あの澱みない杏色の夕焼けに縋りたかった
地平線の彼方には使い物にならなくなった焼却炉がある
届くとか届かないとか 今となってはどうでもよかった
赦されない懺悔を続けることに意味は無いなんて
あなたの口からそんな台詞 聞きたくなかったよ
いつしか粗略な歩き方になってしまったきみの道には
明晰な足跡なんか一つも視えなくて 幽霊になってしまったのかと思った
はじめからそうだったのかもしれないとも思った
きみは本気で執着したこともされたこともないんだろう
そうわたしに告げたのは他でもないあなただったのに
また淡くなろうとするの わたしの知らないところで
わたしの知らないところで泣いてたこと 無くそうとしないでよ
美しくならなくていいから ならなくていいのに
霖雨に浸された追憶が 泡沫が爆ぜるように宙で弾ける
抉れた痣に血が染みて痛い
濡れた三色菫が綺麗だった
雨と三色菫