白妙の国
澱んだ白に蔽われた世界でひとり
かなしみを帯びた瞳で彼女は泣いていた
堰が切れたように濁流が押し寄せてくる
凡て攫って呑み込んでやる
あの巨きな宇宙の胃のなかで綯い交ぜになって
一朶の無機物に還ってしまえばいい
泪がふたつの境界線をやわらかく暈す
虹彩を白妙に染め抜いていく
死んだはずのわたしが帰ってきてくれたことが
ただ夢のように嬉しかった
この優しい膜にいつまでも包まれていたい
外の潮騒で目をさますのは 生々しくて残酷だから
このまま逃げ出してしまおう ふたりだけの世界に
あなたの聲だけがわたしに反響するベールのなかで
わたしの時間はふたたび流れはじめる
気がつけばわたしは
ひとりだけれど ひとりじゃなかった
白妙の国