変態

あおい はる

 空から降る、の、は、あれは、雪、かと思ったけれど、たぶん、海のなかの、雪、そういうものであって、では、ぼくがいま、みている世界が、夢か、現か、は、ちょっと不明。空、というものは、上にあるはずなのに、もしかしたら、下にあって、ほんらいならば、下、にみえる、海というものが、上、にみえるかもしれないような、そんな感じの、歪み方を、している気がする。あしもとが、大地、ではなくて、海の底、の可能性。どこからともなく、ピアノの音色がきこえてくる。旋律。終わりが近いのだと、ノエルはつぶやいて、じぶんの胸に咲いた花を、ていねいに摘み取る。心臓から、肺へ。骨、肉、脂肪、神経、血管、皮膚の、ごくわずかなすきまから、痛みを伴わないよう、細い緑の蔓はノエルのからだを突き破り、朝は鮮やかに、夜は淡い色に染まる青い花を、咲かせる。ときどき、インターネットのニュースが、どうしようもなく、じぶんの生活に無縁の、おそらく、一生、かかわりのないであろう内容でも、わずかな不安感みたいなものを植えつけてくるのが、なんだか煩わしくて、ぼくは、ノエルが摘んだ花をもらい、花びらの枚数をかぞえる。いちまい、にまい、さんまいと。
 夏になったら、恋をしたい、と思っていた頃は、まだ、じぶんが、にんげんである感覚が、あって、いまは、もう、どうだろう。日に日に、ぼくは、じぶんが、にんげんである実感を、うしないつつあり、それは、肩甲骨から生えた、翅、が、かくじつに、昆虫のそれであることと、恋慕を抱く対象が、あきらかに、にんげん、ではなくなっていること。薄黄みがかった翅、翅脈が濃くなり、光を浴びると、翅についた粒子のようなものが、きらきらとまぶしいのだと、ノエルは言う。夜にころがる、だれかの産んだやさしさのしずく、が、ねむるひとびとに安らぎをあたえて。安寧。物好きで悪趣味な神さまに、愛されたこども、ぼくとノエルは、きょうもひそやかに、だれをもうらまず、朝がくるのを待っている。

変態

変態

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日 2020-06-10

CC BY-NC-ND
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