Baroque Night-eclipse二次創作小説<<一日目-2a>>

本作品はPBW『Baroque Night-eclipse』の二次創作小説です。本作品に登場するキャラクターの性格や行動は実際のゲームと多少異なる場合があります。

aパート:ステラ視点 bパート:ルーナ視点

<<一日目-2a>> とっておきの場所

駅周りをぐるりと歩いて思う事。
越してきた隣の駅前を巡った時もそうだったけれど、喫茶店がとても多い。
私にとっては残念なことに、どちらかというと紅茶に力を入れている店が目立つ。

三高平駅の北と東側には真新しいバスロータリーを中心に大小取り混ぜたビルが多く、その一階部分にチェーン展開していない、それぞれに独特の雰囲気を持ったお店が。
西側には小中高大がそろった三高平大学関連が多いためか学生御用達のファストフードやチェーンのコーヒーショップが。
そして南側には大きな公園――三高平公園があり、その中にも移動喫茶店を見かけた。

この地域では珈琲より紅茶の方が好まれるのだろうか。
少し残念ではあったが、それでも公園の近くに二つのコーヒーショップを見つけた。
北側と、南側に一軒ずつ。

大きな公園の中をぐるりと歩いた事もあって、先ほどまでより随分お腹が空いている。
チュンチュン……チチチ……
公園の木々にはどうしてか、そこここにかなりの数の鳥が羽を休める樹が混ざっていた。
うるさいと感じるような数では無かったけれど不思議に思いつつ、作られた場所である事を忘れそうなくらいに林の様相を呈する木々の下を抜けて行く。
木漏れ日はあるけれど涼やかで、上着を着ていない今は少し肌寒い。

公園の北出口わきにある煉瓦造りのお店も珈琲に自信がありそうだった、けれど。
目の前にひっそりと現れた店舗を眺める。
木々を抜けた先にあってウッディな外観。
窓も少なく、明かり採り用のものだろう小さな窓が廂の上に開いている。
林の――正しくは公園の――外にありながらそれに一体化した様な馴染み具合だ。
以前住んでいた場所は森が多く、良く森の中を飛び回って遊んでいた。
そんな時、秘密基地にできそうな場所を見つける度心躍ったものだ。
そんなとっておきの場所を見つけた瞬間の衝動を、この店を見つけた時にも感じた。

そして一番の決め手になったのは。
きっと開くとほんの少しの軋みと共に乾いたベルの音が鳴るのだろうアンティークな扉。
その上にまるでここがお店である事を隠すかのようにひっそりと掲げられた看板を見上げる。
店名『七色の霞』のすぐ横に描かれている文字は、『ブックカフェ』。
珈琲同様に本が好きな私としては、この単語を見逃すわけにはいかない。
俄然興味が湧いて、今日はこの店で食事を取ることに決めた。

カラン
想像通りのベルの音に嬉しくなる。
カウンターの向こうには羊の様にカールした真っ白な髪の毛をふんわりと乗せた、雰囲気までふんわりとした男の子が立っていた。
男の子と言ったのは比喩ではない。
音に気付かなかったのか、幼さを覗かせる横顔をこちらに向けて何か作業に没頭している。私と同じくらいの身長だから、下手をすれば私よりも歳下に見えるだろう。
だが、ひとりきりでこの店の番をしているくらいなのだから多分高校生――歳上だ。

「先日越して来たばかりなのだが、本の気配に惹かれて来た」
私は普段はそこまで口数が多い方では無いという自負があるのだが、弾む心に乗せられて余計な事を口走る。
店員はちょっと驚いたように振り向いた。
「わ、いらっしゃいませ!本好きのお客様はいつでも大歓迎なのです」
ふわりとほほ笑みかける店員の言葉に背を押されつつ店内へと進む。

奥を見遣るとやはり外観で想像した通り、カウンターと反対側の壁は一面に本が埋め尽す本棚だった。
ざっと眺めただけでも小説や雑誌だけでなく、童話や写真集、果ては教養本まであり、それらがところ狭しと並んでいる。
面展で飾られた本もあり、その全てが私の読んだことのない本でそれぞれに面白そうだ。
ひとことの断りも入れず、ついこちらに表紙を向けていた写真集だろう本を手に取ってしまってから自分の無作法に気付いた。

「カフェ・ラテひとつ、よろしく」
振り返れば店員は気にした様子もなさそうに柔和に笑っていたが、なんとなく気恥ずかしくなってメニューも見ずに注文してしまった。
手に取った本はそのままに、手近なテーブル席へ足を進める。
ポスン。
柔らかいクッションを乗せた、こちらもアンティーク調の椅子に腰を下ろす。
さて、と手に持っていた本を開いて頁を送りかけ、ふと気付く。
古びた様子も隠れてはいない椅子でありながら、軋む音も鳴らさない。
そう言えば、と再び店内を眺めれば明らかに店員の背丈より高い本棚もきちんと整えられ、飲食店にあっては天敵とも言える埃の塊などありそうもない。
改めて手入れの行き届いた店内に感動してしまった。
これは、本当に私のとっておきの場所になりそうな――

いや、問題は味だ、味。
ついつい逸る心を押さえて思い直して、気付いてしまった。
この店を訪れたのは、食事が目的ではなかったか、と。
さすがに今から食事を注文するのは気恥ずかしい。誰も見ていないだろうに誤魔化すように写真集に手を触れる。

カサリ
頁を捲ると写真集特有の硬い紙が音を立てる。
不思議な写真集だ。カップに入った珈琲がページを捲るたび少しずつ目減りしていく。頁によっては減ったかどうか定かでない物まであって面白い。順に順にめくっていく見る間に減り、50頁ほどだろうか、最後の頁にたどり着くと、そこにはひと口分の珈琲が残されたカップが写っていた。

なるほど、空ではないのか。
背表紙に飲まれ終えたカップが写っていないかと確かめてみたけれどそこには一色の背表紙が覗くのみだ。
これはどういう事だろう。と考えて、二つほど思い至る。
ひとつ、『あくまでも“珈琲”の写真集であるがゆえに空ではあり得ない』
ひとつ、『最後のひと口分は読者が最後に味わうための物』
ふむ。
なんとなくどちらもあり得そうで、どちらも違うような気がした。

と、先ほどまで私と店員だけだった店内に人が一人増えている。
慣れた様子でカウンターに座る様子からして馴染みの客のようだ。
重々しく周りの空気ごと沈めてしまいそうな軍服姿も、筋骨隆々とした背がその誇りと共に背負っている物の一つだと掲げているようだ。
口ひげにも白髪の交じる壮年の男性。ましてやイケメンで自信をみなぎらせた横顔からも経験の多さが見える。これでは、不躾だと判っていてもつい見つめてしまうのも無理からぬことだ。隣に誰か立っていても気付けないのも仕方がないに違いない。

「カフェ・ラテお待たせいたしました。」
声がする方を見れば、ふわふわ頭の店員がカフェラテを手にテーブル横へ来ていた。
「ありがとう」
とっさにそれだけを口にして、テーブル上の写真集を閉じて横に置く。
先ほど男性の背中を見ていた様子も見られただろう。不審に思われなければいいのだが。
「あ、その写真集……」
テーブルの上の写真集を目に留めたのだろう、店員が言葉を継ぐ。
「意味はよくわからないんですが、なんとなく心を静かにしたいときに手に取ったりします、ボクは。」
きっと黙り込んでしまった私に気を使ってくれたのだろう。なんとか返事をせねばと言葉を探し、焦りが口を衝いて出た。
「最後の写真のひと口分は、読者のために残されているようだね。面白い心遣いだ」
とっさに口にしたのは最後の頁に関する自分勝手な空想だった。
それも、より夢見がちな方を選ぶなんて。
積み重なる恥ずかしさを抑え、何やら絶好調の口を落ちつけようと運ばれて来たばかりのカフェ・ラテに口をつける。
木々の間を歩いて身体が冷えているからと選んだカフェ・ラテは、恥の上塗りで火照った今の私には少し熱い。
「うん、良い店だ。もう少しゆっくりさせて貰うよ」
それが、私の精一杯の言葉だった。

Baroque Night-eclipse二次創作小説<<一日目-2a>>

原作⇒『Baroque Night-eclipse』 http://bne.chocolop.net/top/
ゆっくりと、ゲームをプレイしつつ書き進めて行きたいと思います。

本パートを執筆するに当たり参考にさせていただきましたコーポレーション【ブックカフェ『七色の霞』】およびその店番さんである綿谷様に謹んでお礼申し上げます。
こっそりと、同時期に店を訪れたお客様も参考にさせて頂いております。その方にもこっそりと感謝を。

Baroque Night-eclipse二次創作小説<<一日目-2a>>

本作品はPBW『Baroque Night-eclipse』の二次創作小説です。 本のあるカフェって、良いですよね。装飾品としてじゃなく、実用品としてそこにいられる本は幸せだと思います。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-09

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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