Baroque Night-eclipse二次創作小説<<一日目-1b>>
本作品はPBW『Baroque Night-eclipse』の二次創作小説です。本作品に登場するキャラクターの性格や行動は実際のゲームと多少異なる場合があります。
aパート:ステラ視点 bパート:ルーナ視点
<<一日目-1b>> 巣作り
「作りかけの街、ね」
この古ぼけたアパートのベランダから見えるのは、畑から生えてるみたいな新築マンションと年代物の一軒家。
数でどっちが多いのかって聞かれたらもちろん一軒家で、どっちが目立つのかって聞かれたら真新しいマンション。
昨日この景色を見て「のっぽのキノコと背の低いキノコみたい」って言ったら、妹は「なにそれ」って言って部屋の掃除を続けてた。
冷たい。
ちなみにこのベランダからすぐ斜め右に見えるマンションはここよりも駅に近くてここよりも背が高くて、ついでにここよりもずっと家賃が高い。
「住めば都、でしょう?」
誰もいない、そして引っ越して間もないために家具もまだ満足に揃っていない部屋を振り返って笑いかける。
妹はいない。
「なにそれ」ってひとことすら帰ってこない。
ちょっとさみしいけど、今日は私も用事があるし、妹も用事を済ませるのに隣の駅の中心街まで出掛けてる。
「仕方ないのよね」
私はやっぱり妹の用事の片方には反対だし、そもそもこの街に越してくることもあんまり乗り気じゃなかったし。
けど。
「仕方ないの」
ちょっと自分に言い聞かせるように言ってみる。
ちっちゃな子に言い聞かせるみたいだ、なんて思ってしまって、あぁ、それも間違ってないわね。と思ってしまう。
今の私はちっちゃい子みたいに、駄々をこねているだけ。
『妹が大切だから、危ない所には行って欲しくない』
『妹が大切だから、妹の望む事は応援してあげたい』
二つの想いはどっちも嘘なんかじゃない、本心で。
けれど、どっちかを選ぶとどっちかは選べなくなる。それが悲しくって辛いから。
結局どっちも選べなくって、選べないままで。
妹が動く方に動いて、そして多分、妹の掌の上で転がってる。
はぁ……
ため息を空に投げる。
青空に雲は少ない。風に湿り気もほとんどない。
たっかい(二つの意味で)マンションの向こうに臨む海から届く海風も、今はあんまり強くないみたいで潮の匂いは届かない。
今日は晴れそうで良かった。
妹はポシェットに本とお財布と、そのほかのこまごました物を入れただけで出掛けて行ったから。
そうでなくっても何かに熱中すると没頭してしまう癖のある妹は、雨の降っている時でも考え事をしながら歩いていたりして。
傘をさすのも忘れて。
そして玄関先にびしょ濡れの姿を見せて小さく「ただいま」と言ったりして。
いつもより素っ気ないその声は、恥ずかしさを隠すときの癖だったりして。
ふふっ
もう、可愛くって仕方がない。
思い出して、すこし笑う。
田舎にいたころ近所のおばさまに「ステラちゃんのこと随分好きなのね」って言われたこともあるけれど、きっとたぶん、世の中の姉はみんな妹を愛してるわ。
それはもしかしてもしかすると、私ほどじゃないのかもしれないけど。
ピンポーン
玄関で、チャイムが鳴る。
「あ、届いたんだわ」
呟いて玄関へ足を向ける。
ステップに合わせてトタトタと、乾いた音を立てるリビングとキッチン。
どちらもまだカーペットも何も敷いていない。
車も何もないから、大荷物は妹と二人で買い物に行ける日が良いな。
のんびりと、時間に余裕のある日に。
「はぁ~い」
応える声に、運送屋さんが応える。
今日は前に住んでいた家から送った荷物が届く日。
この部屋は洋風で畳が無いから畳のマットで板の間に仕舞いこんでたのを送った。
あと気に入って使っていた大きな食器棚も、傷だらけで買い直した方が安くつくんじゃないかって言う妹に渋い顔をさせつつ押しきった。
キッチンにはお気に入りを。なるべく使い慣れた物を並べたい。
ほんの少しでも早く新しい家が私の、私たちの住処になるように。
ほんの少し前の話。
私は妹と、そしておじいちゃん――お母さんのお父さんだ――と三人で暮らしてた。
お父さんとお母さんは私と妹がまだ小さい頃にとある事件に巻き込まれて死んじゃった。
そうおじいちゃんは言ってたし、色々知った今でもそれは間違いないみたい。
妹はまだひとつにもなっていなかったからきっと、お母さんの顔もお父さんの顔も写真でしか知らないと思う。
けど、おじいちゃんはとにかくべたべたに甘やかしてくれたから。
だから私は、たぶん妹もきっと、さびしく思う事は少なかったんじゃないかな。
私も妹もこんな髪の毛の色だから、どうしてもあの田舎の村じゃ浮いてた。
どっちを向いても山か森だった、ちっぽけな村。
空だけがぽっかりと開いていたけれど、私たちは飛んじゃいけない。
ちっぽけで、閉鎖的で、外から入ってきた、そして見た目にも異端だった私たちふたり。
妹は小学校に入りたての頃にそれが原因でいじめられたらしくって、泣いて帰って来たりした。
入れ替わりにおじいちゃんが飛び出して行ったから、泣かせた子をとっちめるのかと焦ったりもした。
しばらくして帰ってきたおじいちゃんが連れてきたのは知り合いの薙刀の使い手で、妹を鍛えてくれいとか言って任せちゃった。
あの時はびっくりしたし、ちょっとあきれた。
おかげで妹は今じゃ滅多に泣かなくなったし、泣かせようとした男の子を返り討ちにしたこともあった。
そうだ。
思い出しちゃった。
その時はおじいちゃんがあんまり笑ってばかりだったから、結局私が二人を叱る羽目になったんだった。
どうして私と妹がこんななのかはおじいちゃんは言ってくれなかったし、
いつのまにやらあの狭い狭い村でも私たちは髪の色では不思議がられながらもいつしか上手く混ざる事が出来てた。
今年までは。
今年の頭におじいちゃんが病気をして、頑張っていたけれどとうとう先月、天国へ行ってしまったから。
おじいちゃんの遺書に書いてあった、私たちの事。
それは、私たちがあの村で生きて行くための事。
私はそれを選ぼうとしたのに。
おじいちゃんのしまいこんでいた手紙に書き遺されていた、私たちの事。
それは、イタリアで死んでしまった、私たちの両親の事。
妹はその謎を知ろうとした。いや、しているの。
ピンポーン
また玄関のベルが鳴る。
あら?と、首をかしげる。
外から運送屋さんの戸惑う声が聞こえた。
あっ
「はぁい!すぐ開けます!」
あう……失敗失敗。
私も妹の事を言えないくらいぼんやりしてた。
早くドアを開けて、荷物を運び入れて貰わなくっちゃ。
新しい巣は、まだまだ。
Baroque Night-eclipse二次創作小説<<一日目-1b>>
原作⇒『Baroque Night-eclipse』 http://bne.chocolop.net/top/
ゆっくりと、ゲームを進めつつ書き進めて行きたいと思います。