⬛︎声劇台本「転生勇者はお役所仕事」

配役

勇者 1名 性別不問
召喚士 1名 性別不問



召喚士:…えますか…?…き…ますか…?(小声で)

勇者:(うなだれる)

召喚士:…きこえますか…?勇者よ、きこえますか…?

勇者:ん…はっ…な、なんだ…?

召喚士:勇者アドブズルナザラクよ、聞こえますか。

勇者:あ、あたまの中に声が直接響く…こ、これは一体…?

召喚士:今、私たちの世界が窮地に立たされています。勇者アドブズルナザラク、至高の剣(つるぎ)、魔王を討ちし者よ、我が世界に転生し、私たちのこの世界を、どうか、どうか救ってはくださらないか。

勇者:て、転生だと…?確かに我の名前は勇者アドブズルナザラク。この宝珠の世界、ナランザークイシュタリアを魔王アンプルドリンゴグブ・ミ・メベの支配から解き放ち、世に平和をもたらした至高の剣(つるぎ)、勇者アドブズルナザラクに間違いはない。

召喚士:ええ、ええ、心得ています。お願いです、その力を私たちの世界でも奮っていただけませんか。

勇者:ふむ…異世界であったとしても人々が困っているのならば手を差し出すのが勇者の務め。転生もやぶさかでは無い。…が!しかし!

召喚士:え、あ、はい

勇者:大変申し訳ございませんが、具体的な依頼内容を確認させて頂いても宜しいでしょうか?

召喚士:え、ぐ、具体的ない、依頼内容…?

勇者:はい。えー例えばですね、依頼内容が世界平和ー…などのぼんやりとした内容となりますと、手配すべき道具、人、申請部署などに違いが出てきてしまうんですね。

召喚士:は、はあ。

勇者:今回そちらの異世界の方で現状発生している問題点をお聞かせ頂けますでしょうか。

召喚士:あ…は、はい、えーとまず、こちらの国の王都が闇の王に占拠されまして…

勇者:占拠、というと?具体的にどのように、誰が、何をして占拠したのかをお聞かせ頂けますか?

召喚士:あ、はい、すいません。えっと、今王都の中心に立つ城を黒く歪んだ樹木のようなものが、締め付けるというか、絡まるような形で城を覆っていて…

勇者:樹木ですか…それだと私の専門外となってしまうので、環境整備窓口に害的樹木の伐採申請が必要になりますね。お城の所有権はどなたがお持ちですか?

召喚士:あ、多分王様で間違いないかと…

勇者:では今回は特別に、こちらの窓口で申請書の作成までしてしまいますので、えーと、召喚士さんが代理人ということで作成を進めさせて頂いてもよろしいですか?

召喚士:あ、わざわざご丁寧にありがとうござぃす!はい、代理人は私でお願いしたいです!

勇者:かしこまりました、では代理人様のご本人様確認書と現住所の確認できる物をお願い致します。

召喚士:現住所か…すいません、ちょっと今住所確認できるものがないかも知れなくて…元々城住まいで、今は城も…あれなもので…

勇者:あれ?ないですか?例えば公共料金のお支払い明細とかでも問題ありませんよ?馬車の使用証明とかありません?

召喚士:あ、そういうのでも大丈夫なんですね。それなら多分…っと、あったあった。いま転生魔法でお送りしますね。

勇者:はい、ありがとうございます。っと、はい、確かに確認とれました。こちらお返し致しますね。

召喚士:ありがとうございます。いやあ、たまたまドラゴンガスの支払い明細もっててよかったです。さっき支払いに行ってきたんですよ。

勇者:ならちょうど良かった!…はい、書類のほうは完了しておりますのでこちらの方で部署に回しておきますね。次に勇者派遣に対する用途の確認なのですが

召喚士:はい。

勇者:今回は、その闇の王の討伐、ということでよろしいでしょうか?

召喚士:はい、それでお願いしたいです。

勇者:かしこまりました。えー、害的主要原因の討伐依頼…っと。えー、派遣先の住所なんですけれども、今回はどのような形をお考えで?

召喚士:あー、えっと、すいません、実は異世界転生はじめてでその辺よくわかってないんですけど、どういったやり方が一般的とかあるんですかね?

勇者:はい、大まかに分けて2種類になりますね。

召喚士:2種類…

勇者:まず一番多いのが、勇者と討伐対象の位置を遠目に配置して転生させる形。わりとこちらがポピュラーかと思います。

召喚士:ほうほう。

勇者:転生した勇者自体の主体性に委ねる部分もございますが、討伐だけでなく地域の活性化を同時に実施していく流れにもなりますので、後の社会復興がいくばくか早くなるため、こちらをお選びになる方が多いように感じますね。

召喚士:なるほど。社会復興は確かに大事ですもんね。

勇者:もう1つが、いきなり討伐対象の現在地に転生をし、即討伐を実施する形。最近はこちらをお選びになる方が多いですね。

召喚士:えー、情緒みたいなものがあまりないですね。

勇者:そうですねぇ、最近はなんでもお手軽、放置、オート進行とかが流行る時代ですから…この間なんて派遣した女勇者が52年放置されちゃって、放置すればするほど強くなるとでも思ってるんですかね?戻ってきたころにはおばあちゃんですよ。

召喚士:そ、それはあまりにも酷い!んー、迷うんですけど、ここはやっぱり前者の形で実施していきたいかなぁと。

勇者:情緒…ですね?

召喚士:はい、情緒…です!

勇者:かしこまりました。それでは、提出して頂きたい書類が数点ございます。まずは、勇者の転生先であるご住所、こちらの証明書類ですね。

召喚士:はい。

勇者:それと、討伐対象のいるお城の登記簿謄本(とうきぼとうほん)。

召喚士:登記簿かあ…あったかなあ…

勇者:やや、登記簿が無いと困りますね。

召喚士: 無いと申請できませんか??

勇者: そうですね…やはり何事もこういった申請の際には基本的に登記簿が必要となりますので…。

召喚士: 一体何に使う書類なんですか?

勇者: 使う使わないではなく、必要なんですよー…いやー困ったな…。

召喚士: そうかー…大体そういうもんですもんね、使うか使わないかじゃなくて…。

勇者: そうなんですよ、使うか使わないかではないんですよ…。

召喚士: …厳しいですかね…?ちょっと…王様に確認してみないと…登記簿がどこにあるかはわからなくて…。

勇者: …んー…わかりました!登記簿に関しては事後提出でなんとかやり過ごしましょう!一旦、所在地不明ということで、調査中としておきますので、勇者派遣三日以内に後ほど送付される申請書と一緒に返送していただければ!

召喚士: ほんとですか!?うわあ!助かります!あーよかった!!今王様、ドラゴンのお腹の中なんですよ!はーよかった!これで勇者にドラゴンをまず討伐してもらえればなんとか!

勇者: ん…?いまなんと?

召喚士: え?

勇者: 王様はドラゴンのお腹の中、そう仰いましたか?

召喚士: は、はい、そう…なんです…が…。

勇者: となると現在、依頼人の方はご存命ではない、と?

召喚士: い、いや、ほら!まだ生きてると思うんですよ!丸呑みも丸呑み、豪快な頭からの踊り食いだったので!ほんのすこーし!溶けちゃったりしてるかもなんですが!

勇者: 食べられてしまったんですよね?

召喚士: は、はい…。で、でもお腹の中を開けてみなければ死んでるのか死んでないのかわからないのでセーフじゃないですか!

勇者: 誰がシュレディンガーの猫なのか!申し訳ありませんが、ご依頼主の方が死亡されてらっしゃる場合代理人を立てることが出来ませんので…。

召喚士: そ、そんな!…じゃ、じゃあさっきのことは忘れてください!!!ちょっと口が滑っただけなんですよ!つ、次の!最後の書類ってなにが必要なんですか!?

勇者: 依頼主の方の押印のある代理人申請書です。

召喚士: (演者さんの思いつく限りの史上最低なオーマイガーを好きに表現してください)

勇者: あ、でもご安心ください。まずは別の窓口にて救助申請を申し付けていただければ。

召喚士: ほ、ほんとですか!よ、よかった!そ、その窓口はどちらに…!?

勇者: あ。もう17時で定時なので申し訳ございませんが明日以降再度お問い合わせください。

召喚士: (先程のオーマイガーを超えるオーマイガーでこの物語にケリをつけてください)

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⬛︎声劇台本「転生勇者はお役所仕事」

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-05-30

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