ブツブツ

ブツブツ

 「蓮コラ」というものをご存じだろうか?蓮の花が枯れ、花びらとおしべめしべのあったところに種がブツブツと張り付いているのを、加工によって人間の体の一部に合成した画像である。見る人が見れば蓮コラは恐怖の対象でしかない。
 私も蓮コラに恐怖を感じる側の者である。我々が覚えるような、点が集合した姿への嫌悪感を、集合体恐怖症というらしい。
 我々がこの特殊な嫌悪感を患っている原因には諸説あるが、その一つに、寄生虫から身をも守る為の本能の働きという説があるが、これに関しては「余りにも酷なので」私は信用しないことにしている。
 私は他の説を採用することにしている。その説とは、画一的な種は一つの原因で滅びる恐れがあるので、種の存続の為に同じ個が集合している様には嫌悪感を覚えようになっている。というものである。画一化が何故種を滅ぼし得るかというと…バナナを例に挙げようと思う。バナナにはキャベンディッシュという一種類しかなく、一つの病が流行するだけで絶滅してしまう。そのような事態にならないように、多様性を必要としなければならないと、本能が恐怖に訴えかけるのである。繰り返しになるが、私はこの説に納得するように自身に言い聞かせている。

 ところで、私は神である。そして私は今下界を見下ろしながら猛烈な恐怖を覚えている。それは下界には「人間」という無個性な粒がブツブツと集合しているからだ。
 人間は皆経済活動の為に自己を失って働いている。自己を失うということは、他者よりも優れる為に自分に個性を付け加えることを放棄する。ということである。私は人間が経済を基本的な価値に定めた時、不安を抱きつつも、その価値観を根幹にする社会でなら、富を獲得するべく希少価値を生み出す為に、人間達が他者との差別化を図ろうとすることを期待していたが、経済社会において富を得る為には、とことん常識という枠組みから出ないように心掛けなくてはならないというのを人間達は共通認識として持ってしまっている。
 私にはそのような人間達の姿は、地球の皮膚の上にびっしりと巣食う昆虫の卵のように見えてしまう。しかしいくら自然を破壊しているとはいえ、知的生命体に対してそう思うことを私の良心が許さないので、私は嫌悪感を覚えている原因を画一化としているのだ。とはいえ、人間の無個性の粒々とした有様への体を掻きむしりたくなるような衝動は抑えられない。これまで私は我慢して来たが、もう限界である。粒をかき乱したくて仕方がない。もう人間社会に手を加えなくては気が済まない。
 だから私は、人間社会に疫病でも流行らせる積りだ。

ブツブツ

ブツブツ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-05-25

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