Baroque Night-eclipse二次創作小説<<一日目-1a>>

本作品はPBW『Baroque Night-eclipse』の二次創作小説です。本作品に登場するキャラクターの性格や行動は実際のゲームと多少異なる場合があります。

aパート:ステラ視点 bパート:ルーナ視点

<<一日目-1a>> ご挨拶

「作りかけの街、か」
目の前には扉に嵌ったガラス窓。その向こうに現れた景色を眺めて少女は呟いた。

グレーの瞳の先には大小の差、高低の差こそあれいかにも人工物然とした建物が立ち並ぶ。
キリンのように首をのばすクレーンがしがみつく、そんなビルも見える。

『次は――三高平――三高平――停車の際――電車が揺れますので――…』
電車内に響くアナウンスすら人工的な響きを持って、作り物のように聞こえてくる。

ガタタン
ひときわ大きな音を鳴らして、列車が駅構内へと滑り込む。その振動がほんのり灰色がかった白髪を揺らした。
闇の中で輝くほどには白くない、それでも日本では物珍しさに目を引くであろうそれは今、ただ一人の興味も引く事はない。

線路に逆らうかすかな音と共に車両は勢いを無くし、少女の眼の前にあった自動ドアも開け放たれる。
ホームに降り立つ少女を吐きだすと車両はもう空っぽで、降り立ったホームにも人の姿は少なかった。
ジオラマの中にひとり迷い込んだような心地にでもなったのか、歩みを緩めた少女の背を朝の風が通り過ぎて電車を追って行く。

少女の名はステラ・ムゲットStella Mughetto。
色素の薄い髪と瞳が示す通り、日本で育ってはいるけれど日本人の血は1/4しか入っていない。
14歳という歳にしてはやや低い背たけの華奢な身体を飾り気のない衣装に包みこんでいる。
タクシードライバーの付けるような薄手の白手袋とシャツの間には腕時計も無く、襟足で切りそろえられた髪にもピンひとつ付けていない。
アクセサリーと思しきは白く輝くクロスのタイピンと、首元に潜むロケットの細い金鎖くらいだろう。
素っ気ない衣装とショートカットの髪型はややボーイッシュに映らなくもない。
けれど、その怜悧な瞳の内には好奇心を宿し、容貌は少女の愛らしさを隠しきれていなかった。

北口、はこっち。
手帳に挟んでいたキップを自動改札機に呑みこませ、駅を出る。

人の少ない駅は、その外もやはり人は少なかった。
とは言え全く居ない訳ではない。
私が育った村のものよりずいぶん広いこの道路が行き交う人の数をより少なく見せている、ただそれだけなのだろう。

――或いは全て、“私と同じもの”だからだろうか。
目の前を横切っていく気崩したスーツ姿をつい目で追ってしまったけれど、男性は気にした様子もない。

ふるふると首を振って、それより遠くに視線を送る。
車の通りも少ないだだっ広いアスファルトの向こう側には、東京のビジネス街からひっこ抜いて植え直したようなガラス窓だらけのビルが陽光を乱反射している。

まぶしい。
湧き上がる衝動。
さっさと引き返してしまいたい。
もしくはポシェットに入れてきた本を読んでのんびりしたい。
どこかに私好みの喫茶店でもないだろうか?
美味しい珈琲のある店ならなおのこと。

否、さっさと用事を済ませよう。
何かと心配症の姉ですら「迷わないでしょう」と口にした通り、今日ひとつめの目的地は判りやすい。
大通りの向こうののっぽのビル。これがおそらく目的地――アーク本部のある三高平センタービルだ。

向こう岸へ渡る横断歩道は丁度赤信号になったばかり。
面倒だけど、待たなければならない。
私はまたひとつ、ため息をついた。


三高平センタービル、その玄関ホールはとても広かった。
冬も近づいて冷えていた身体を温かく包みこむ空気が、無機質なデザインの館内を寒々しい様子のままにしていない。
正面には不思議なデザインの――前衛的なと表現すべきなのだろうか――時計が丁度8時を示していた。

背にした自動ドアが音を立て、外から人が入っては私を避けて進んでゆく。
自動ドアをくぐりぬけたまましばらく立ち止まっていた私の姿を不審に思ったのか、受付カウンターの女性が私を気にしている様子なのが判る。

段々と人の増えてきている様子のこの場所に長居したくもない。
早く用事を済ませようと、受付嬢と思しき女性の前へと足を運んだ。

なぁに?と問いかけんばかりに首をかしげる女性。
おそらく年上だろう女性に言うのも何だが、愛嬌のあるしぐさも相まって可愛らしい。

そして、やはりと言うべきか、私と同じものの感じがした。

「ここがこの組織の玄関口か?
 ステラ・ムゲットという名が私のものだが情報は届いていただろうか。
 貧相だが羽もある、フライエンジェのプロアデプトだ。
 不慣れだが歳を理由にする気はない。私は知らぬ事を知る為にここに来た。よろしく頼む」

一息に告げて、軽く頭を下げる。
少し、硬かっただろうか。

普通の人間であれば躊躇うであろう単語が並ぶ。そんな自己紹介に、

「ようこそ、アーク本部へ」
女性はにっこりと微笑んで応えた。


アーク本部とは何か、を語り始めると設立の背景から始めかなりの時間が必要になるだろう。
ざっくばらんに言うと、『この世界は壊れかけていて、そのうち日本で起こる事件から人と世界を守っている組織の本部』だ。

そして、この組織――アークに所属する者の多くは人ではない。
いや、もっと正確に言うならば『人あるがままの存在ではない』のだ。

人そのものの姿ではあるものの異能の力を手に入れた者。
牙や獣耳・翼など異種族の形態がその身に顕現した者。
身体の一部が武器化、あるいは生体金属と化した者。

エリューション化と呼ばれる現象により、人ならざるモノになった者たちは少なく無い。
一部のエリューションには元来人ではなかった物が意志を持つに至った場合もあり、
そういう物たちは事件を起こすことも多いため、危険な存在として対処する必要がある。

そんな中、ともすれば迫害される対象でありながらもこの“一般人”で溢れかえる世界を守る選択をした者たち。
そう言った者たちを私たちは『リベリスタ』と呼ぶ。
アークとはそんなリベリスタ達が寄り集まり、出来る限り一般人にはその異能が露呈せぬよう暗躍を続けている、そんな組織である。

そして私自身も、その一員になりたいと望む者だ。


エレベーターに乗り、地図にない地下フロアへと案内しながら女性はエフィカと名乗った。
受付には“離席中”の札を出していたが、そんな長時間は離れていられないのだろう。
ざっと地下フロアの説明を終え、ひとこと注意事項の様な文言を残すとすぐに戻って行った。

「甘い言葉の男には要注意」
何故こんな場所で告げられたのか、理解に苦しむ。

コツン、コツン。
リノリウムの床が硬い靴音を響かせて、通路の奥に吸い込まれて行く。

地上部分がビジネスビルらしい無機質さであったのに対し、このフロアはどちらかというと病院的な、理系の研究施設的な無機質さを抱いている。
どこがどう違うのかと問われるとはっきりとは説明できないが、イメージ的に、だ。理系の研究施設なんて訪れた事もない。

時間帯が故か、フロア内の気配の数も少ない。

窓口は開いているだろうか。
ふとそんな不安が胸をよぎるが、案内された場所へと辿りついてみればきちんと窓口は開いていた。

取り急ぎここを訪ねてきた用件を済ませる。
それは「アークに関わる者としての住民登録」だ。
市役所的な――戸籍的な意味での住民登録ではない。
一時的にでもアークに所属し、任務(事件への対処やその後処理など)を行う者、
もしくは行う可能性のある者はその能力であったり姿形であったりを登録しておく必要があるのだそうだ。

簡単な履歴書の様なものをざっくりと書きあげて提出し、
この施設を利用するための様々な生体情報を――先ほどのエレベーターを動かすには虹彩認証が必要だった――登録する。
このため本人がいなくては住民登録出来ないらしく、今日は越してきた部屋の始末のため来なかった姉もどうやら一度来なければならないようだ。

ついでに少しばかりフロアの中を探索してみようか。
控えめに好奇心を抱きつつ、通路に出る。
エレベーターの前から続くこの通路の先はまだ、見えない。

と、奥の方から人好きのしそうな笑顔を振りまきながら男性が歩いて来るのが見えた。
こちらが視線を送っているのに気付いたようで、ぱちりと目が合う。
男性は一層にっこりと笑みを広げて見せた。

ふと、エフィカの言葉を思い出して踵を返す。
なんとなく近づいてはいけないような、そんな気がした。
好奇心をかき消してエレベーターの中へと身体を滑り込ませる。
特に追ってきた様子は無く、ほぅと息をつく。

一体誰だったのか。
考えるのも今更なので心にとめ置くだけにして、深くは考えない事にした。

地上へ戻り、先ほどより少し肌寒いように感じる玄関ホールを通り抜け、自動ドアから外へと出る。

そこにはもう朝の空気はほとんど残っていなかった。
気付けば意外に時間を費やしていたらしい。
冬も近づくこの季節、それほど高くも昇らない太陽は駅舎に隠れてどちらかというと背を叩くビルの反射光の方が暖かい。
作り物の様に思えるこの街も、陽光が差せば改めて現実と感じられる。

「太陽は、あまり好きではないけれど」
光を避けるように街路樹に寄り、ぽそりと呟く。
木の葉と風の匂いは嫌いじゃない。

適当に食事を済ませてからもう一つの目的地へ向かおうと、
近くで食事できそうな所――珈琲の香りがすればなお良い――を探しつつ駅周りを散策してみる事に決めた。

Baroque Night-eclipse二次創作小説<<一日目-1a>>

原作⇒『Baroque Night-eclipse』 http://bne.chocolop.net/top/
ゆっくりと、ゲームを進めつつ書き進めて行きたいと思います。

次に<<一日目-1b>>をお読みいただくのも<<一日目-2a>>をお読みいただくのも、どうぞお心のままに。

Baroque Night-eclipse二次創作小説<<一日目-1a>>

本作品はPBW『Baroque Night-eclipse』の二次創作小説です。 ステラとルーナ、二人のキャラクターと過ごすBNEの世界をお楽しみいただけると幸いです。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-07

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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