午前一時のコンビニエンス

あおい はる

 りんごの色に、にていた、赤、真夜中のコンビニにいた、おとこのひとの、くちびるを盗み見て、なんだか、血でも吸ったあとのようだと思った。
 あの、あんな時間だけれど、無性に、アメリカンドッグを食べたくなったという、きみについて、パジャマの上にパーカーを羽織って、ぽてぽてと歩いて行った、きみの部屋から徒歩二分のコンビニには、何度もあくびをかみころす、大学生くらいのおとこの店員と、お酒をえらんでいるスーツ姿のおとことおんなの二人組と、それから、アイスのケースをじっとみつめている、全身黒い服の、長身の、赤いくちびるのおとこのひとが、いた。ぼくは、みんな、たったいま、おなじ場所、おなじ時間を共有しているのだけれど、それぞれ、おもっていること、かんがえていることはちがうのだなぁと、想像すると、ちょっと愉快だった。それって、ふだんから、にんげんなんてみんな、そうなのだけれど、なぜだろう、そのときはひときわ、ふしぎな感じで、愉快だったのは、午前一時をまわっていたからかもしれない。きみの部屋から、コンビニまでの道のり、だれともすれちがわなくって、どの家にも、明かりはなく、街灯は、闇にぼんやりと浮かび、いまの時間、このあたりのひとびとは、みんな、眠っているのだと思うと、こう、じんわりとにじんでくる楽しさが、あった。夜更かしをおぼえたばかりの、子どもみたいな、やつ。コンビニのかんばんは、真夜中でもおかまいなしに、こうこうとかがやき、自己主張がはげしい。アメリカンドッグをもとめるあまり、アメリカァンドーッグ、と、妙な節をつけて歌うきみは、くやしいけれどかわいかったし、自動ドアが開いた瞬間、一目散に、レジに走り寄ってゆくきみの、グレーのパーカーの下の、チェック柄のパジャマとの、こう、意外と悪くない組み合わせをまじまじとながめて、くちもとは自然とゆるんだ。
 おとことおんなの二人組が、レジに行く。かごには、これから二人でその量を飲むのかと疑うほど、大量のビールと、チューハイと、ワインのちいさなボトルが入っていて、ねむそうな店員が、のんびりした調子で、ひとつひとつ、バーコードを読んでゆく。おんなが、おとこのうでに、自分のうでをからませ、ささやき、ほほえみあっている。アメリカンドッグだけでは物足りないなのか、お菓子コーナーにいるきみは、新発売のチョコレート菓子と、地域限定のポテトチップスを見比べ、悩んでいるようだ。赤いくちびるのおとこのひとは、アイスを、ぽい、ぽいと、かごに入れて、ドリンクコーナーに向かった。ぼくは、おとこのひとのくちびるが、あんなにも赤い理由を、ひとり妄想していた。理想は、あのひとが吸血鬼であること。だれかの血を吸った帰り道、尚も満たせない食欲に駆り立てられ、コンビニに寄った。現実的なのは、真っ赤なくちべにを塗ったひとと、キスをしたあとで、これがいちばん、可能性が高いので、ほんとうにそうだったら、すこしざんねんかもしれない、などと勝手に思っていた。
 気怠そうに、合計金額を読み上げる店員。
 お菓子とにらめっこを続ける、きみ。
 赤いくちびるのおとこのひとがドリンクコーナーで真っ先に手に取ったのはトマトジュース、ではなく、ふつうに、ミネラルウォーターだった。

午前一時のコンビニエンス

午前一時のコンビニエンス

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-05-23

CC BY-NC-ND
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