オールドライラックの歌声
野の花に、蜜、きえゆく星のまたたきが、きみのひとみのなかで、揺れた。
あの声はときどき、きこえる。町のすみっこにある小さな美術館に、きみの好きだったひとは眠っている。あれは、起きている、というのかな。目をあけているけれど、でも、人形のようにうごかないから、眠っているが正しいかもしれない。展示名が、氷の園という。どのへんが氷?、と思いながら、ぼくは、きみの好きだったひとを、きみがいないときに、鑑賞に行く。きみは、悲壮感満載、という感じの表情で、始終、その好きだったひとを見つめているから、ぼくは、そんなきみを見ているのが、いやなので。ネモフィラの花で染めたという、洋服を、きみの好きだったひとは着ていて、透明なガラスケースのなかに、立たされている。ガラスケースは、もちろん、つめたい。あの声が、一体、だれの声なのかは、わからないけれど、美術館のだれかであることは、まちがいなく、ここには、ほかにも、起きているんだか、眠っているんだか、不明のひとたちが、飾られている。こどもから、おとなまで。
呼吸、というものの、色をイメージするならば、きみはきっと、ライムライト。夜に徘徊するこどもたちは、ベイビーブルー。うたをうたうものたちのそれは、オールドライラック。
いつも、どこかで、きみが、あの、好きだったひとのことを想いすぎて、作品としてじぶんのからだを、売り渡すのではないかと、はらはらしている。
オールドライラックの歌声