夜と朝のはざまでみる夢は

 世界にひとつだけのものを失ったとき僕は正しく生きる術をかなぐり捨てるかもしれないけれど許して。あの日の君が朝焼けの海に飛び込んだとき反転した星はいつか屑となって宇宙に散る。好きなひとと結婚したいと祈っていた頃はなにもしらない子どもだった。僕にも無垢な時代があったのだと過去を振り返る時間が長くなる度に星と共に屑と成り果てる終わりも悪くはないと思う。先生のあの細く骨ばった指に翻弄されたかったのだ。愛に溺れて死にたいと古めかしい詩人みたいに妄信していた十五才。黄色と橙色の絵の具をまぜたような海のなかで君はこの星と世界の歪みをわずかにのぞいたのだという。ほこりっぽくて少々かびくさい図書室の書庫で先生の手に意図的に触れたあの瞬間の度胸というものを僕はもう持ち合わせていない。おとなになると勇気というやつは薄れてゆくものなのかもしれない。駅のホームで先生に似たひとを見かけたときにドキドキして少女漫画に出てくる恋する女の子みたいな自分が酷く滑稽だった。
 嗤っていいよ。

夜と朝のはざまでみる夢は

夜と朝のはざまでみる夢は

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-05-05

CC BY-NC-ND
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