パジャマパーティー

パジャマパーティーって難易度高くない?難読漢字くらい高くない?

全く。
全く柄ではないのだけど、パジャマパーティーというものに参加させられることになった。
「今度の土曜日でどうかしら?」
友人の館華葵といういかにもお嬢様みたいな、まるでスパロボに出てくるキャラクターの名前みたいな友人に誘われたのである。
「いや、いいです」
もちろん最初は断った。それはもう全力で断った。全身全霊で断った。
だって、そんなアメリカのティーンみたいな。そんなの。私みたいな純正の日本人面の顔にたいして凹凸もない奴にはちょっと。ちょっとそういうのは。
「荷が重いです」
だって、夜にパジャマ着て敷いた布団の上でキャッキャうふふするんでしょ?何が面白いのかわからない話とかせにゃならんのでしょう?好きな人の話とかせにゃならんのでしょう?
「できないよ。出来ないです。無理です」
そんな事。恥ずかしい。ああ恥ずかしい。考えるだけで恥ずかしい。顔がぽっぽする。
「・・・」
いや、百歩譲ってさ。アンタと私がプリキュアとかだったらそういうのもあるかもしれないよ?限られた仲間同士、連携を図るとか、お互いの事を深く理解しておかなきゃいざという時何があるかわからないからね。
「・・・」
でも、私とアンタはそういうのじゃないでしょう?ね?あんただってプリキュアじゃないでしょ?私だってそうだし。話だったら学校でしたらいいじゃん。それでいいじゃん。私あんたの話聞いてあげるし。いくらでも聞いてあげるし。相槌だってうつし。へーそうなんだーうそー。ってリアクションもするし。
「・・・」
何だったら、休みの日だってあんたの話聞いてあげるし。いや、聞いてあげるっていうその感じがなんかあれか?聞かせてもらいますし。拝聴させていただきますし。電話でもいいし、なんだったらどっかに行ってそこでっていうのでもいいし。私は構わないし。全然かまわないし。アンタの話楽しいからね?私の人生ではおそらく関わり合いの無かったことをきけるから。楽しいから。すごい楽しいよ。
「・・・」
だからさパジャマパーティーとかする必要ある?それにお互いの家が違うじゃん。ランクっていうの?そういうのが全然違うじゃん。アンタは名前通りの家柄の人だよ?で、私なんてただの一般人ですよ。モブですモブ。それを家に簡単に上げるとか親になんか言われるだろって。それが更にパジャマパーティーとかありえないだろって。ねえ?
「・・・」
私だってあんたの家には軽々しくいくなって言われてるしね。親に。もちろん親によ。もちろん。それに私みたいな小市民が行って何かあったら大変だって言ってるの。何かあっても私は責任取れませんぜっていう話。それなのにさらにハードルの高いパジャマパーティーとかありえねえって言ってるの。わかるでしょ?あんただってもう子供じゃないんだからさ。そういうのわかってるでしょ?
「・・・」
だからさ、
「その唇を出すのやめなさい」
彼女にはそういう癖がある。へそを曲げた時とか唇をアヒルみたいにする。言っておくけどアヒル口という事ではない。そんなカワイ子ちゃん口みたいな代物ではなくて、ぎゅーっと物理的に上下の唇をそろえて前方に出すのだ。側面から見たら見事な成層火山みたいになる。富士山や羊蹄山みたいなの。ずっとそうしていると山岳信仰が生まれそうな気さえする。
「・・・うそでしょ?」
そんでそうなったらもうほぼほぼ詰み。
「・・・今度の土曜日でどうかしら?」
ほら、さっきと同じセリフ。なんでそういう時だけモブみたいなんだよ。この野郎。

そんで結局、場違い甚だしいと自覚している館華葵のパジャマパーティーに出席することになった。

「当日はパジャマ持ってきてね」
「せめてマリオパーティーにしない?」
最後、私はそれだけ言った。でも彼女はうふふと笑ってから手を振って運転手付きのクラウンか何かに乗って帰ってしまった。最後の自分の発言、全く意味なかったな。そう思った。でも言わずにはいられなかった。例え弱者でも抵抗せずにはいられないのだ。

そして当日はあっという間に来た。
「じゃあ今日ね」
耳元でそっとつぶやいて帰って行く葵の背中に無性に飛び膝蹴りなんかをかましてやりたくなったがなんとか我慢した。

「あーもう!」
そして家に帰り腹を決め、いつものでいいからという葵の言葉の通り、いつも着てるパジャマ代わりの楽なスウェットの下と、首元ダルダルのシャツを持って彼女の家に向かった。あとついでに言うと親からメロンを持たされた。

そうして彼女の家に行きラインで着いたと伝えると、すぐに門が開き彼女が出てきた。
「いらっしゃーい!今日は我が家だと思ってくつろいでね」
出来るわけねえだろ馬鹿野郎。

それからなぜか彼女はドレスといった類のものを着ていた。背中のざっくり開いたそれ。色は名前になぞらえているのかなんかそういう色。
「これがパジャマ?」
そんな彼女に疑問を抱いていた隙をついて葵は私の荷物をひったくるように奪うと、じゃあ行きましょうと先導して家に向かっていく。

嫌な予感がした。

巨人でも住んでるのかと思わせる無意味としか思えない程大きな玄関のドアをあけて中に入ると、一階のホールみたいになってるところにたくさんの燕尾服とかドレスとかの明らかに私とは住む世界が異なる奴等がいた。大量にいた。

しかし葵はそれには目もくれず私を彼女の部屋に連れていき、バタンとドアを閉めると、
「さあ、着替えましょう」
と、言った。

パジャマに?

違った。

彼女が手を叩くと、女中みたいな人達が部屋のあちこちからたくさん出てきて、やめろー!って言ってる私の事を脱がせ、あっという間にドレスみたいなものを着させられて、化粧みたいな事をさせられて。ぎゃーってなった。

その後、有無も言わさず例の一階で行われていたパーティー会場みたいなところに葵と連れていかれて、何が何だかわからずにいると、
「さあ、それでは館華葵様の誕生記念パーティーを開催します」
ってアナウンスが聞こえて、私は葵に手を掴まれたままパーティー会場に突入させられる事態となった。

誰かもわからない奴等が皆しておめでとうおめでとうって手を叩きながら言ってた。

あと、葵のパジャマと私のパジャマがなぜか会場の一角に展示されており、何しやがるー!ってなった。毛玉とかついてるのにいー!って。それで葵の事を刺そうと思った。あとで。これが終わったら刺そうって。包丁とかでぶすぶす刺そうって。下腹部を。それはもう刺そうって。

でも、
「この度は私のためにありがとうございます」
マイクを前にしてキリっとした表情で話しながらも、その間もずっと片手で私の手を握りしめ、そんでその手が若干震えてるのが分かっていた私は、まあきっとそんな事できないだろうなーって思うのだった。

パジャマパーティー

パジャマパーティー

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-05-03

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