異次元美術室
永遠を乞うように生きている僕は絵の具の匂いに満ちた美術室で冷たい石膏像を抱く君の横顔を貴いものとして眺めている。四月の色は一際に淡い。クラスメイトとの薄気味悪い友情ごっこから逃げ出して筆を握りカンヴァスと向き合う瞬間の非現実的な感覚に酔う。誰かがプールに飛び込む音がした。十六時。
(上半身だけの石膏像に、君は何を求めているの?)
作者不明の風景画に宿るもの。自画像に眠る魂。描きかけの油絵。美術室は生きているものの気配がひそかに蠢いている気がする。噎せ返るほどの。
悲しみを拭うために筆を滑らせる。
怒りを鎮めるために筆を殴りつける。
愉悦を得るために筆を躍らせる。
床にこびりついた赤い絵の具が変色して血に見える。石膏像を抱いている君が気まぐれに歌を口遊んで、開け放たれた窓から吹奏楽部の演奏が聴こえてくると空しさが肥大する。
よくわからない寂しさに圧迫されて筆を持つ手が震えた。
サッカー部のホイッスルの音が怖くて、野球部の金属バッドでボールを打つ音が恐ろしかった。
学校の片隅に忘れられたように存在している飼育小屋のなかで静かに息をしているうさぎのことを時々想った。
異次元美術室