青いドビュッシー

「毎日更新していく形式にしようと思います」と最初は言ってましたが、こちらの事情によりなかなか書き進めることができておりません。申し訳ないです。5/18以降再度更新していこうと思いますが、数日間更新が滞ることもあるのでご了承下さい。

この時期は、六時に起きても外が暗い。カーテンを開けると、明けの明星が東に見える。二階のリビングから眺める街並みは、暗く沈んでいる。私がテレビを見ていると、両親も着替えを済ませた状態で降りてきた。
「いつもより起きるの早いね。どうしたの?」
と母はにこやかに言った。私が返答をするいとまもなく父が、
「じゃあもう始めるか。」
と言って私に巾着袋を渡した。
「そうだね。」
私は明るい声で返事をした。
「南無妙法蓮華経」と達筆で書かれたタスキを肩にかけ、数珠を手に持ち、仏壇の前に座る。数珠を手ですり合わせ、床に向かって伏せる。そして、15ページほどにまとめられたお経を無心になって読む。途端に心が静かになる。目を閉じると、両親の祖母や祖父の顔が思い浮かぶ。頭が冴えて、さっきまでの眠気がなくなっていく。
 幼い時から、家にいるときは毎朝この儀式をしてきた。両親は、「先祖に感謝し自分たちが幸せになるために大事なことなんだ」と繰り返し私に教えてくれた。あまりにも当たり前のことだったので、小学生に入ってからしばらくの間までは、「他の家もこんな感じなんだろうな」と思っていた。だから、初めて友達にこのことを話した時にびっくりされたことが、私としては却って衝撃的だった。ただ、私はそのことを不快には思わなかった。むしろその時は、親不孝なんだなと見下してしまうくらいだった。
お経を読み終えて、最後にもう一度数珠を鳴らし礼を終えると、母は台所に向かっていった。

私には2年間付き合ってきた男子がいた。彼とは小学生の時からの幼なじみで、家も近所だからよく一緒に遊んでいた。彼はピアノを習っていて、家にはグランドピアノがあった。小学生の途中まで、私はそれをいじるためによく彼の家にお邪魔していた。私がピアノに触れて遊んでいても特別綺麗なメロディーはならないのに、彼が弾くとピアノはまるで別人のように「音楽」を奏でるのだった。最初のうちは、私はそれが不思議で仕方なかった。
中学1年の秋、彼は私に告白してきた。実はその頃、彼以外にも仲のいい男子が何人かいた。正直、私は誰か男子と付き合うということに興味を持っていなかった。けれども、特に断る理由もなかったから、彼と付き合うことにした。仲の良かった男子たちは、私が彼と付き合いだしたと知ってから、私に話しかけてくることはほとんどなくなった。

 教室に入るとすでに彼がいた。私が席に座ってしばらくすると、彼は私の方にきた。
「聡君おはよう」というと、彼も「おはよう」とあいさつを返した。
「中間考査どうだった?」
と聞いてきたので
「まあいつも通りかな」
と答えると、
「数学いつもより難しくなかった?」
と聞かれた。たしかに、いつもよりも応用問題が多かったから、点数を下げた人は多そうだ。ただ、教科書やプリント類をそつなくこなしていればだいたいわかる問題だった。
「まあたしかに、いつもより点数を落とした人は多いかもね。でも配られたプリントとかをやってれば解けないこともなかったと思うよ。」
「あっ、全然やってなかった。そこから出てたのか。じゃあ今回は優に負けそうだな。」
 私たちはいつもテストの点数を競っていて、テストの順位は学年で十位前後をとってきた。ただ、私は教科書と授業のプリントをメインに勉強しているのに対して、彼は参考書や塾の勉強がメインで、先生から配られるプリントはあまりやらないタイプだった。授業中も、先生の話は聞かないで自分の勉強をしていることが多かった。定期考査は授業をしっかり受けている人の方が有利なはずなのに、私が彼に負けることもしばしばあった。時々、私はそれをいじらしく思うことがあった。それでも、はにかみながら寝癖のついた髪を撫でる聡の姿をみると、自然と笑顔になれるのだった。「告白した時から、全く変わっていないな」という言葉が一瞬口に出そうになった。
 
 
 

 

青いドビュッシー

青いドビュッシー

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-04-24

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