髪を切った

 雨降りの朝は、じっとりとうっとうしく、暑く、じめっといきぐるしいのに、それでも、その湿っぽさは骨身にしみて、痛い。
 だれのえらそうなひとにもなりたくない。
 ひとは平等ってのはえらそうなひとが吐いた大嘘で、ペテン師にだまされた道徳的なものものやひとびとが、あるだけで、いるだけで、責められてる気になるのは、でも、思いこみ。
 わかってるのにね。いたい。
 華奢な眼鏡のせんぱいは、雨に濡れることがだいきらいで、傘を絶対に、絶対に、わすれない。傘を愛しているので、なにが、どれだけ、開発されても、傘だけはこのままであってほしいと、ぽつりとつぶやくせんぱいの傘は、夜色。
 セーラー服が、だから、まぶしい。
 「えらそう」せんぱいはその非難に見事耐え、クラスメイトのだれだれがさぼった事ごとをつつがなくさりげなく済ませてみせては、時間だけは平等よと笑うのだった。
 だから、雨が、すき。卒業式も、雨だった。部屋のなかで思うせんぱいの抱える花束の色が、はなやかでなくてごめんなさい。
 しずかな夜にはやっぱりどうしてもせんぱいがいて、いまごろトウキョウにいる、せんぱいがまだ、あの華奢なめがねをかけていると、いいと、勝手ながら、思う。

髪を切った

髪を切った

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-03-29

CC BY-NC-ND
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