ふたりのネム

 さみしい日の、砂糖、ミルク、コーヒーの海。
 乳白色がにあうよ、ぼくたちは少年である、ネムという友だちが、先日、ふたりに分離して、ふたりのネムは、三日月を見上げたまま、石になりました。せんせい、どう思いますか、と言ったら、せんせいは、すこしだけめんどうくさそうな声で、しらないよ、と答えて、でも、指は、ぼくの髪に触れたままだった。だれにもあいしてもらえない、と思っていたので、いま、ぼくは、せんせいにあいしてもらえていることが、しあわせなのです。ネムは、やさしい少年でした。動物と、昆虫と、植物が好きで、星座は、夜空を見ても、いまいちわからないのだけれど、でも、きらいではないと云っていました。星のなかでも、ひときわ輝いている星を、ネムは楽しそうに見つけていた。ネムから分離した、もうひとりのネムは、ネムとは正反対で、動物も、昆虫も、植物も、星座も、まるで興味がなくて、厭世的で、気が弱くて、でも、やっぱりネムのからだから分かれた人格なのだから、ネムにもそういうところがあったのかもしれないし、というよりも、ネムが無意識に排他してきた面が、もうひとりのネムとして離れた、と考えた方が無難かもしれない、などと、ぼくは想っていたのでした。
 せんせいはあきもせず、ぼくの髪に触れ、指で弄び、撫でます。ときどき、あい、というものが、わからなくなります。せんせいにあいされている、という実感はあるのですが、果たして、これでいいのかと、問いかけるのです、ぼくが、ぼく自身に。ふたりのネムの石像は、町はずれの、小高い丘のうえにあって、ぼくは、週に一度、様子を見に行きます。
(だれかにあいしてもらいたいと、ずっと願っていたけれど、いざ、あいしてもらうと、どうしてだろう、不安ばかりが、つのってゆく)
 ネムのとなりに立つと、町が見下ろせる。ちいさな町は、かよわげにそっと、息をしている。いつまでも、せんせいの指の感覚が、のこっている。ちょっと、のろいみたいに。

ふたりのネム

ふたりのネム

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-03-29

CC BY-NC-ND
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