宇宙人二世 マリア 5

 そんな交信が暫く続いた。やがて八ヶ岳連峰の上空に光る物があった。宇宙船から更に小型無人船で放出されたカプセルだろう。幸い周りには誰も居ない。怪しまれる事はないだろう。いやそれを計算して放出しのだろうか。そのカプセルは上空から降って来るように落ちて来た。そのまま落下すると思った急速にスピードを緩めフワリとマリアの目の前に着地した。直径一メートル程の球体があった。この球体はどうやって開けるのかと思ったら無意識にマリアの手で触ると上の部分が開いた。四角い金属の箱が二つ入っている。そのうちの一つを開けると、その中からパソコンのような物を取り出した。マリアは見た事ないが父のドリューンが持っている物と似ている。他に注射器のような物と鉄の試験管のような物が入って居る。たぶん血液をこの注射器で取り出し試験管に入れろと言う事だろう。もう一つの箱は帰ってから見る事にした。マリアは近くに停めてあるワンボックスカーに乗って持ち帰った。しかしこのまま家に持って帰れば、それは何かと追及される仕方なくワンボックカーの中に隠してある。頼まれた植物の種はあとで買いに行く予定だ。揃ったらアルタイル星に交信して約束の血液と植物の種を送るつもりだ。家に帰ると母の佐希子が訪ねた。

「お帰りマリア。蓼科山どうだった天気も良くいい写真撮れた」
「うんいい写真撮れたよ。お客さん多いの、手伝おうか」
「丁度良かった。今から奥多摩駅に三人連れお客さんを迎えに行ってくれる」
 奥多摩駅の一日の利用者は千人に満たない駅だ。その為に平均一時間に一本、通勤時間帯に二本だ。完全に赤字路線だ。だから圧倒的に奥多摩に観光に来る人は車が多い。奥多摩の観光と言えば奥多摩湖、日原鍾乳洞、鳩ノ巣渓谷、氷川渓谷、鳩ノ巣渓谷、白丸調整池ダムなどがある。特に夏から秋にかけて観光客が多いが、冬は流石に殆ど観光客が来ない。正月を除き冬場は民宿を休む。
 両親はそれを利用して旅行に出かける。とにかく二人は旅行好きだ。二人が知り合ったのも北海道だと聞いている。たが未だに母の佐希子は父のドリューンはイタリア人だと言っている。マリアは父がイタリア人じゃない事を知っていた。マリアに父が宇宙人と聞いたらショックを受けるだろうと気を使っているのは分る。だから当分は父の出生の秘密には触れない事している。

第三章 特殊能力

 マリアはその日の夜、アルタイル星からの贈り物を調べる事にした。カプセルから取り出した二個の箱は愛車のワンボックスカーに隠してある。父母が営んで居る民宿の駐車場がある。お客様用と兼用で十五台ほど停まれるスペースの奥に停めてある。マリアが車に近づいて行くと異変に気付いた。後ろのガラスドアが壊されていた。マリアはアルタイル星人から送られた箱二個が無くなっているのに気づいた。マリアは囁いた。
『やってくれたな。でも盗る車の相手を見誤ったようね』
 マリアは車の周辺を調べた。バイクのタイヤの跡が沢山残されていた。マリアはバイクも持っている。オフロード用バイクでヤマハの新型バルーン二百五十だ。ヘルメットを被ると迷うことなく青梅市へ向かった。青梅市を中心に暴れまわっている青梅連合で間違いないと読んだ。奴らの溜まり場は多摩川添えにある青梅リバーサイドパーク周辺に屯している。時刻は夜の八時を過ぎた頃だ。河川敷に降りると暴走族が二十人ほどいて騒いでいる。
「おいサトル早く開けろよ。きっとお宝が入って居るぞ」
「それがさあ一向に開かないんだよ」
「じゃあハンマーでやって見な」
 一人がハンマーで箱を叩いた。ガーンと鈍い音がしたもののビクともしない。マリアは川の上の方にバイクを停めて歩いて来た。服装は皮ジャンにジーンズだ。マリアは大人になって何故か瞳の色が黒からややブルーに変わった。マリアは父のドリューンの血を引いているのか眼はややブルー。髪は黒ではなく少しグレーぽい。身長は百七十センチと大きい。運動神経も優れていてサッカーやテニスも都大会に出るほどだ。それだけじゃなくあらゆるスポーツに対して優れていて大学に入ってからは空手も始めた。マリアは大声で叫んだ。
「こら~泥棒ども人の物を盗んだあげくに壊す気か」
「なんだオメイ。お前のだという証拠はどこにある。邪魔だから消えろ」
 だがマリアは怖じ気づくどころか平気で河川敷に降りて来た。すると暴走族は一斉にマリアを取り囲んだ。二十対一余りにも無謀過ぎる。
「いい根性しているな、ネイちゃん。まさに飛んで火にいる夏の虫だな。調子に乗るなよ。素っ裸にして廻してやるぞ」
「なんと下品な物言い、しかし出来るのかな。いまのうちよ謝ってその金属の箱を返すなら許してあげない事もない」
 すると暴走族の連中は腹を抱えて笑いだした。そしてすぐ一人が真顔になりマリアを後ろから羽交い締めにしようとした。だがマリアは其処には居なかった。もはや人間とは思えない。まるで瞬間移動するかのように動いていた。世界で一番早く走る動物ランキングではチーターが時速百十五キロ、海ではバショウカズキ百八キロ、空ではハヤブサ三百八十七キロ。因みに人間では世界記録保持者のボルトは三十七.五キロが最高だ。一瞬マリアが消えたと思ったらリーダー格の男を見つけると物凄い勢いで跳躍して飛び蹴りを喰らわせた。リーダー格の男はフイを突かれてもんどり打って倒れた。すかさずマリアは男のアゴを強烈に蹴った。男は泡を吹いて伸びてしまった。暴走族達は唖然とする。女だと思って舐めて掛かったのが間違いだった。暴走族達は真剣な表情になりチェーンや木刀を持ち出した。そしてジリジリとマリアを追いつめる。
 マリアはそれでも怯むことなく睨みつける。十九対一、一人減ったぐらいでは状況は変わらない。するとマリアの眼差しが変わって行く。そして眼が青白く光り始めた。そうあの隠れた瞳に下にあるホクロのような物が光っている。驚いた暴走族は後ずさりし始めた。次の瞬間その眼は強烈な光を放った。まともにマリアの眼を見た連中は眼を抑えてのた打ち回る。眼が強烈に痛みだし何も見えない。鼓膜に唐辛子の粉末を入れられたような感じだ。残ったのは三人、何が起きたか分からない。しかし現実にはリーダー格を含め十七人が倒れて戦意喪失状態だ。もはや勝ち目はないと見た三人は逃げようとした。だがマリアは逃がさない。瞬時に移動し三人の前に立ちはだかる。怒りに満ちた眼がまた光はじめた。
「わぁ許してくれ俺達が悪かった。あんたは何者だ。人間かエスパーか」
「宇宙人だとでも言いたいの。見れば分かるでしょう。普通の大学生よ。さああの金属の箱を此処に持って来て」
「分りました。いま持って来ます」
「よし次は倒れている連中を川の水をぶっかけて目を覚まさせるのよ」
 三人の男は慌てて川の水をバケツに入れて次々と水をぶっかけた。なんかと起きた連中を整列させるが完全に怯えている。もはや人間ではない。眼が光りレザー光線のように狙ってくる。マリアの眼を見るように命ずると怯えながら仕方なく見た。次の瞬間またしても眼から強烈な光が放たれた。暴走族の連中は立ったまま金縛りにあったように動けなくなった。
 マリアは笑いながら金属の箱をバイクに乗せて走り去って行った。暴走族の連中は暫くして睡眠から覚めたように動き出した。だが金属の箱を盗んだ事もマリアが現れこっぴどく痛めつけられた事も記憶になかった。マリアが記憶を消し去ったのだ。マリアが初めて見せた特殊能力の一部だった。宇宙人の血を受け継いだマリアはエスパーになりつつあるようだ。

 つづく

宇宙人二世 マリア 5

宇宙人二世 マリア 5

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-03-26

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