彷徨え永遠。

 『地球の年齢はいくつでしたっけ?』
 『45億とちょっとです』
 『それであなたは、それ以上いきた人間だっていうわけですか』
 『ええ、私は、地球の前の星もしっています。なぜなら私は、魂ですから』
 『魂!?まあ、それはおいておきましょう、まあその話は、こここのところ巷では持ち切りですから、小学生や幼稚園児、もはや赤ん坊だってその話をしてますよ』
 狭く白い部屋に、ぴっしりとビジネススーツの背広をたたんで、シャツを袖まくりした一人の青年。もう片方に、光る光球。球体も、いわずもがな、山内太郎も、丸い椅子にすわっている。不思議な長方形の空間が横たわり、山内はそれ以上その光る塊に近づいてはいけないと理解した。光る球体は、丸椅子に、まるで山内をまねるように、腰をおろしているようだった。
 『えっと、じゃあ、最後の質問の前に、もう一つだけ』
 『ええ、なんでもどうぞ、なんといっても私は魂ですから』
 『あなたの正確な寿命を教えていただけませんか?どうも、地球のことや、我々人類のことばかりで、それ以外はくわしく話されないようなので、たしかに僕らからすると、あなたのような人、人というより“人玉”だか、ユーフォ―だか、ユーモアだかしんないけどそういう人が現れた理由がただ、知りたい、僕は知りたい、きっと読者の皆さんも』
 『そうです、記者さん、私はあなたが地球に固執したように、私も同じように固執してみせただけ、私はそう、魂です、魂は最後ひとつになるのです』
 机の上には山積みの資料、編集部から大手出版社○×出版に努める記者である、山内太郎は、ポケットの片隅にひそめた、編集部からのメモを読み取り、ゴクリ、記者は生唾を呑み込む。長い机、いやに細長い机の上に資料がたんまりとある。こんな缶詰の状況でも、仕事をしなければ、そもそもインタビューの相手は、小さな光の固まり、こんなことは前代未聞で、しかもそちらから、このインタビューのありがたい申し出があったのだから。山内太郎は記者生命をかけてそのインタビューに挑んだ。
 『すみません、では最後の質問です』
 『はい』
 『どうして、あなたは、その重大な秘密を私に話すおつもりになったのです?こんな、地球上がパニックに陥るようなお話はですね、もう少し時期や、そう、もったいぶったりしたりするのが、そうだな、出版業界、マスコミ関係はまだしも、この世とあの世の秘密だなんて、なぜ、もっと大きな、国とか行政とか、警察とか秘密結社とか、専門のオカルト出版社を頼りにしなかったのですか?』
 『あなたはまだ……仕事をしているのですか?周りをみてごらんなさい』
 シャツの襟をぱたぱたさせて、窓を何気なく除く、ひたいからもみあげ、もみあげから顎や首筋を、冷たくつたう汗は、脇やら襟に不快感をもたらし、それを消し去るように耳を澄ませてみた。夏の陽気の中、やけるような、やけるような頭痛が、脳裏をかすめた。そして、白いベッドと、白いへや、何か見覚えがある。
 『まわりをみてごらんなさい、景色ははりぼて、あなたはもう、こちら側に来ているのですよ』
 現実では、病院の白い部屋にかかげられた、その山内太郎の名前が書かれた名札が、看護師に肩付けられている最中だった。

彷徨え永遠。

彷徨え永遠。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-03-20

Copyrighted
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