騎士物語 第九話 ~選挙戦~ 第一章 会長の下準備

RANPO

第九話の一章です。
学外での戦いから変わりまして、学内のイベント――選挙の始まりです。

第一章 会長の下準備

「フェンネル? もしかしてフェンネル・ファイブロラか?」
 一年生の校外実習、魔法生物討伐体験特別授業は生徒によってかかる時間が違う。十日間くらいの期間が設けられ、それをフルに使う生徒もいれば一日二日で戻る生徒もいて、後者の場合は他の生徒が戻るまで休暇となる。
 オレたち『ビックリ箱騎士団』の場合、一日目を移動、二日目から六日目を火の国で過ごし、七日目を帰路としたので一週間で戻って来た事になり、数日の間は休みを得る事ができた。
 ただし実習の報告はなるべく早くという事だったので、オレは『ビックリ箱騎士団』のだ、団長として、セイリオス学院に戻った翌日に先生の下へと報告にやってきたのだ。
「はい。カンパニュラ家の専属騎士になっていて、色々とお世話になりました。」
「はー、あいつそんな所にいたのか。惜しい奴が退いたと思ってたが、一応は現役なんだな。」
「先生はフェンネルさんを知っているんですか?」
「まぁな。こう……自分で言うのもなんだが、私が『雷槍』としてそこそこ名前が知れてるみたいに、あいつも『紅蓮脚』っつー二つ名で有名だったんだ。」
「『紅蓮脚』……」
 ふと戦っていた時のフェンネルさんを思い出す。クロドラドさんやゼキュリーゼさんの巨体を蹴り飛ばした、あの炎に包まれた脚――確かに『紅蓮脚』だ。
「強かったぜー? そのくせ普段は「ふふふ」と笑うメガネの優男だから、女からの人気がハンパなかった。んま、ちょっと変な方向ではあったが。」
「変?」
「あいつの服装についてだ。」
「ああ……はい……」
 フェンネルさんは、パッと見だと黒いスポーツウェアのようなモノを着ているように見える。身体のラインがくっきり出るような、身体にフィットしたやつで全身を覆っている感じ……なのだが、実際はそうじゃない。
 アンジュの……あの、み、見えてはいけないところが見えないようになっている不思議制服と同じ魔法によって「見えない」だけで、実際は素っ裸なのだ。
「本人は周囲のマナを全身で取り込む為っつってんだが、どう考えても変態だろ? でも、あんなイケメンがその引き締まった身体を惜しげもなくさらして歩いてると知ったあいつのファンは、逆にそれを拝むために集まるようになったんだ。」
「えぇ……」
「私にはそっちの良さはわかんなかったが、強さは本物だった。一回サシでやってみたいと思ってたんだが……そうか、火の国にいるんだな……」
 ニヤリと笑う先生……
「で、どうだった、ワルプルガは。魔法生物とガチンコやったんだろ?」
「……今さらですけど先生、それって国外の人は知らないはずですよね……参加した人も口外できない契約をしますし……」
 ワルプルガというのは一般的には火の国の建国祭を指す言葉で、首都で開かれる盛大なお祭りがそれだ。だけどその裏ではガガスチムさんたち、ヴィルード火山で人間と共存している魔法生物と交流を目的とした勝負が行われていて、火の国の貴族の序列を決める重要な戦いだったりする。
 魔法生物と戦う人間側の戦士は貴族がそれぞれに集めた私設の騎士団だったりどこかから雇った傭兵だったりと様々なのだが、そうやって呼ばれた人たちは建国祭の裏でそういう戦いが行われているという事を国外に漏らす事を禁じられる。もしも誰かに喋ったなら、魔法の契約によって丸焦げになる……らしいのだ。
 実際、オレたちもそういう魔法のかかった契約書にサインをしたのだが……
「だっはっは、言っちゃ悪いがあの契約は結構ザルなんだよ。例えば参加した事のある二人がワルプルガの裏について思い出を語り合うのは問題なく、それをたまたま聞いた誰かがいたとしても何も起きねーんだよ。」
「なるほど……そういう感じで伝わっちゃっているんですね。」
「人の口にはってやつだな。まーでも大抵は都市伝説みたいな扱いをされて、それが事実だって確信してんのは一部の騎士だけだから火の国も慌ててはいないわけだ。」
「という事は先生も伝え聞いただけだから、オレは先生に話すと燃えちゃうんですね……」
「ああ、そのままだとそーなっから――」
 言いながら、先生は机の中から高級そうな紙をひらひらと取り出した。
「校外実習の内容を知る必要のある私に話したら炭になるってんじゃ困るからな。あとから私にも契約書が届いたんだよ。これで私とお前は、さっき言った「参加した事のある二人」みたいな状態になったわけだ。……実際には契約しただけで私は未経験のままだが……」
 と、すごく不満そうな顔で言う先生。確かに先生はああいうのが好きそうだ。
 んまぁ、残念ながらというか、話のメインはワルプルガそのものではなくなるのだが。
「あの先生、実は――」

 火の国で起きた魔法生物の暴走。首謀者がクロドラドさんだとか、その協力者として『罪人』のメンバーがいたとか、そういう事件の詳細はワルプルガの裏同様に口外を禁止された。完全に秘密にするというわけではなく、一度火の国の中で情報をまとめ、他の国に伝えるべき情報とそうでないモノを精査してから報告するのだという事で、それまでは他言無用となった。
 政治的なあれこれでオレには分からない事も多いが……とは言え、オレたちはセイリオス学院の授業の一環としてワルプルガに参加したわけで、その報告にはどうしても事件の話が入り込んでしまう。よって特例として、先生相手にだけは話して良いという事になったのだ。だから先生には何を話してもオレが燃える事はないのだが……元々契約書が渡されていたとは知らなかった。
 というか、オレたちの先生だからとは言え、ワルプルガの裏や事件の真相やらを「特別に」という形で許可されてしまう先生がすごいのではなかろうか。



「あ、そのソファはそっちだよ。ボクの席とロイくんの席は隣同士だからね。」
「色々な家具を提供してもらっている事はありがたいが、それは却下だリリーくん。」
 いつもなら……なんでかあたしとロイドの部屋に集まるんだけど、今は強化コンビもいるからあたしたちは部活として認められた『ビックリ箱騎士団』の部室にいる。
 校長が空間を捻じ曲げて作ったっぽいこの部屋は結構な広さがあるからとりあえずここに集まったんだけど……この部屋、ボタン一つで色んな環境を再現できるクセに談話室みたいにくつろげる空間にはできなかった。
 だからあたしたちは、ロイドが実習の報告に行ってる間に部屋の環境を変えても一部分だけは変化しないように調整して、そこに休憩スペースを作る事にした。
「んあ? こーゆーのはどこが誰の席とかは決めねぇもんじゃねーのか?」
「そうだな。しかしアレク、始めはそうでもだんだんと定位置は決まっていくモノだ。特に団長であるロイドの席は固定されやすく、ならばその隣に位置付ける者は――というわけだ。」
「あーなるほど。となると俺らは俺らで先に定位置を決めといた方が良さそうだな。」
 自分たちの分の椅子を壁際に置いて満足そうに座る強化コンビ――慣れた身のこなしで車いすから椅子にうつるカラードと椅子をきしませて座るアレキサンダー。

 魔法生物たちが大暴れした次の日に帰りの電車に乗って、その翌日に学院に戻ってきて今日はその次の日。つまり『ブレイブアップ』を発動させてから三日が経ってるからカラードの車いす生活もそろそろ終わるんだけど……問題はアレキサンダーの方。
 防衛戦で魔法を使いまくったことで負荷で動けなくなる、いわゆる魔法切れで全員ぐでんぐでんだったのに、『ブレイブアップ』までかけたアレキサンダーは一度もだるそうにしないで今日も元気にしてるのよね。ホントになんなのかしら、この筋肉は……

「む、エリルくんがアレキサンダーくんに熱いまなざしを! 応援するぞ!」
「違うわよ……」
「そういえばエリルちゃん、帰りの電車で何をしたのかちゃんと聞いてなかったね。」
「……は?」
 リリーの言葉にふり返ると、強化コンビが何かを察してふらりと部屋から出て行って、残った全員があたしをジトッと……
「ふむ。ロイドくんの挙動からして何もなかったわけはないからとりあえずボコボコ――おしおきをしたが、詳細はまだだったな。」
「ロ、ロイドくん……ラッキースケベ、状態だから……な、なにかす、すごかったんじゃ……」
「べ、別に何も――なかったわよ……」
「……エリルくん、ロイドくんほどとは言わないが下手なウソだぞ。」
「そーいえばロイドがノクターンモードを解除してから今まで、誰もロイドにやらしーことされてないよねー。まさかお姫様相手に使い切ったとかー?」
「そんな! ロイくんとイチャイチャできるチャンスなのに! エリルちゃんひどい!」
「恋愛マスターの運命の力がそんな使い捨てのようなモノとは思えないが……確かにまだ何もされていないな。これはあとで二人きりになってみるしかないが――で、どうなのだエリルくん。」
「な、何がどうなってたっていーじゃないのよ! あたしとロイドはここ、恋人なんだから……!」
「あははー、そう言ってられるのも今の内だよー? 次のお泊りデートであたしがロイドをゲットするからねー。」
「お泊り――って、なんで次があんたになってんのよ!」
「だぁってー、うちにいる時に半分くらいはしたんだよー? 間にお姫様を挟んじゃったけど、これはそのままあたしの流れだよー。ちょーど実習の分の休みがあるしねー。ラッキースケベが切れない内に――明日とか……んふふー。」
 トロンと溶けるアンジュ……か、帰ってきて早々これなんだからこいつらは……!
「帰ってきて早々、という顔をしているが帰り道でやらかしたのはエリルくんだぞ。」
「う、うっさいわね!」
「あー、おい、ちょっといーか?」
 何とか聞き出そうと迫るローゼルたちをどうしようかと思ってたら、外に出た強化コンビの筋肉の方――アレキサンダーが扉から顔だけ出してそう言った。
「何か客が来たんだが。」
「ぬ、もしやまたあれか、『ビックリ箱騎士団』に入りたいという生徒か?」

 ローゼルが言ってるのは、ラコフ戦を通してシリカ勲章をもらったあたしたち――『ビックリ箱騎士団』が有名になった影響で起きた事。あたしたちはランク戦でAランクを取ったメンバーばっかりなんだけど、アレキサンダーはティアナに負けてCランクで、だけど勲章をもらってるから……「『ビックリ箱騎士団』に入ればものすごく強くなれる」みたいな噂っていうか認識っていうか、そういう状態になっちゃったらしい。
 だから入団を希望する生徒が結構出てきて……勲章をもらった後、割とすぐに実習に入ったから騒ぎが強制的に止まった感じだったけど、こうして戻って来たから再燃したのかもしれないわね。

「なんつーか……それ絡みらしーんだが、来たのは会長だ。」
「はぁ?」
「やあやあ、二人が外に立たされているという事はサードニクスくんを中心とした修羅場中なのだろうけどちょっとお邪魔するよ?」
 アレキサンダーと同じように扉の隙間から顔だけ出したのはこのセイリオス学院の生徒会長――銀髪色白で知らないと女に見える男、デルフ・ソグディアナイト。
「――と、サードニクスくんがいないという事は恋人であるクォーツくんを中心としたドタバタかな? うん、それはそれでちょうどいいかもしれないね。」
 意味わかんない事を言いながら入ってきたデルフは、並べたばかりの椅子に「座っていいかい?」と聞きながら腰を下ろした。
「さて、校外実習お疲れ様。火の国に行ったそうだね。カンパニュラくんがいるのだから当然ワルプルガの裏の方に参加したのだろう? なかなか羨ましい限りだ。その上何やらゴタゴタがあったみたいだから、きっとそれにも関わって騎士としてこの上ない経験を積み、もしかすると二つ目の勲章なんかを貰ったりなんかしちゃっているのかな? ふふふ、『ビックリ箱騎士団』の注目度は上がり続けるね。」
 さらりと秘密のはずのワルプルガの裏とあの事件の事を知ってるっぽいデルフにビックリしたけど……まぁ、なんかこいつだしっていう変な理由で納得もできちゃうのがおかしな話よね……
「そんな『ビックリ箱騎士団』に対して要件が三つほどあるのだけど、さっきちょうどいいと言ったのはその内の一つがロイドくん以外に対しての話だったからでね。まずはそこから話をしようかな。」
「ほう、おれたち団員が対象の話というわけか。」
「残念だけどそういうわけではないね。正確に言えば、サードニクスくんハーレム――サードニクスくん大好きクラブのメンバーに対してさ。」
「あん? んじゃ俺らは外にいた方がいいか?」
「いや、一番近くで見ている二人の意見も欲しいところだよ。」
「む? イマイチわからないが……わたしのロイドくんへの愛がどうしたというのだ?」
「うん、これはこの前風紀委員長から言われた事なんだけどね――」

 デルフが話したのは……よ、要するに、あたしからロイドをう、奪おうとするローゼルたちの攻撃が周りに変な影響を与えてるって事だった。
 さっきデルフが言ったように、『ビックリ箱騎士団』は今、学院の中でかなり注目されてる。それは一年生ながら首都の防衛に参加した事から始まり、ランク戦や交流祭でドンドン積み重なっていったモノが勲章授与で爆発した結果で、一年生はともかく上級生にも入団を希望する生徒が出てくるような状態になった。
 で、たぶんその勲章が問題で……騎士として勲章をもらうっていう事はすごく名誉なことだから、他の生徒たちにとってあたしたちが……なんかこう、模範みたいな憧れみたいな存在になりつつあって、そんなあたしたち――い、いえ、あたしは違うけど、ローゼルとかがロイドにあれこれアタックするから、それが「良い事」――みたいな扱いにされつつあって……

「結果、誰かを愛する生徒がわたしのようにその思いを形にしてぶつけるようになってきたと?」
「えへへー、ボクのロイくんへの愛をみんなが見習ってるんだね。」
「優等生ちゃんとか商人ちゃんをっていうよりはあたしたちのやり取りをマネするよーな雰囲気になってるってことー?」
「みんなほど激しくはないけどね。普通の学校よりも薄くなりがちな青春の色がこの騎士の学校に広がりつつあるという事さ。」
「あー、だからあれか、セイリオスとしちゃああんま良くねぇ状況だと。」
「僕はいいと思うのだけどね。サードニクスくんじゃないけど、愛の力は偉大さ。けれど風紀委員長はそう思っていないみたいでね。サードニクスくんと親しくしている僕にそういう恋愛事のあれこれを控えるように言ってくれないかと頼んできたのさ。その内風紀委員長本人も来ると思うけど、その前にさらりと状況だけ伝えておこうかなと思ってね。」
「……だそうよ、あんたら……」
「む、つい一昨日にやらかしたエリルくんが自分を棚上げだぞ。」
「だ、だからあたしはこ、恋人だからいいのよ!」
「仮の、だよ。ロイくんの未来の奥様はボクなんだから。」
「その辺のは明日とかにひっくり返すけどねー。」
「ま、まだ……あ、あたしも頑張るから……」
「生徒会長、見ての通りだがロイドを巡る戦いは控えられるようなモノではないと思う。」
「近くで見てる俺らはこれを止めたりするのは命に関わる事だと思ってるぜ。ここにいるので全員じゃねーしな。」
「ふふふ、そのようだね。これを見て風紀委員長がどういう判断を下すか、少し様子見かな。」
「ふむ、まぁどうなろうとわたしは変わらないが。それで、残り二つの要件とは?」
「どっちも選挙絡みの話さ。」
「……そういえばあんた、ロイドを推薦するって言ってたわね。ちゃんと聞いてなかったけど、なんであんなのを生徒会に入れたがるのよ。そもそもあんたは今回の選挙で引退なのに。」
「生徒会に限った事ではないけれど、引退したらそれで終わりというわけではなく、むしろそういう組織に所属していたという事実が生むメリットはその後なのさ。」
 指を組み、デルフはニッコリしたまま説明を始める。
「部活や委員会に所属していると卒業後に関わりのある騎士団や研究機関に入りやすくなったりするわけだけど、最大の利点は就職先が開ける事ではなく、その組織の先輩後輩と縦のつながりを持つことができるという点なのさ。」
「つながりって……別にそんなのなくたって今もあんたとロイドはよくしゃべってるじゃない。」
「そうだね。しかしそういう知り合いや友人というつながりは一度疎遠になると切れてしまう事が多々ある。少なくとも卒業後、僕が騎士としてあちこちに行くとしてもサードニクスくんはまだ二年間学生だ。会う機会は極端に少なくなるだろう。十年後、二十年後ともなれば互いの連絡先もわからなくなる可能性は大きい。」
「ふぅむ、それはわからなくもないな。小さい頃によく遊んだ相手がいたとして、その人物が今どこにいるかと聞かれるてもわからない場合がほとんどだろう。」
「けれど同じ組織に所属したという事実はそこにもう一本、別口のつながりを持つことを意味する。生徒会で言えば歴代のメンバーは全て名簿になっているし、連絡先の更新も随時行っている。本人同士が互いを忘れたとしても、こちらのつながりは消えないというわけさ。」
「……つまりあんたがロイドを生徒会に入れたいのは……ロイドとのつながりを持っておきたいからってこと?」
「そういうこと。勿論、実力のある生徒が生徒の模範たる生徒会に入るべきだとか、母校の更なる発展を願ってとかそういう想いもないわけではないけれど、個人的なメインはつながりの保持になるかな。」
「……なんであんなのと……」
「ふふふ、僕の目的の為というのもあるけれど、そういうのを無しにしたってサードニクスくんと知り合いという事は計り知れない価値を持つ。色々と経験したみんななら理解できるだろう?」
 目的……デルフのそれがなんなのか知らないけど……お姉ちゃんやカーミラ、フェンネルが言ったみたいにロイドの持つ人脈とかはかなり凄くて、だからロイドの価値は高いとかなんとか……要するにこいつが言いたいのもそういう事ね……
「それにサードニクスくん自身好感の持てる人物だし、関りがあると色々と退屈しなさそうだ。」
 あははと笑うデルフ――を、ジトッと睨みつけながら口を開いたのはリリー。
「結局、ロイくんを生徒会に入れたいのはそっちの都合って事だよね。なんか生徒会って忙しそうだし、ロイくんとイチャイチャする時間が減りそうだから却下だね。」
「なんであんたが却下すんのよ……」
 ……あたしならともかく……
「いやいや、サードニクスくんにもメリットはあるよ。さっき言った縦のつながりはそのまま新たな人脈だし、生徒会メンバーだからこそ許可される事も多い。立派な騎士を目指す者にとっては嬉しい事が多いはずさ。」
「あー、ちなみに会長さんよ。ロイドが生徒会に入ったとして、部活との……あー、なんつーんだったか……ああ、かけもち? ってのは大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。今の広報担当のアルクさんも放送部と兼任だ。生徒会と委員会の掛け持ちはできないけれどね。」
「んならロイドが生徒会に入っても大丈夫だな。この騎士団、レアな体験ばっかできっから無くなると困るんだぜ。」
「ふふ、そのようだね。ま、選挙も近いからそろそろ選挙活動をしなくちゃいけなくて、だからサードニクスくんの意志の最終確認というのが残りの要件の一つだったから、今の話を彼に伝えておいてくれると嬉しいかな。」
「うむ、この本妻ローゼルさんに任せるといい。」
「あんたねぇ……」
「で、でもロイドくんが、だ、団長兼生徒会って……なったら……い、今よりももっと……『ビックリ箱騎士団』が、有名になっちゃいそう、だね……」
「そう、ずばりもう一つはそれさ。今の『ビックリ箱騎士団』――いやサードニクスくんの影響力についてだよ。」
「ロイドの影響力?」
「さっき話した風紀委員長の話も、色々な実績を残したサードニクスくんが中心だからこそ生徒たちが影響されているというのもあってね。要するに今のサードニクスくんにはかなりの発言力があるという事さ。」
「む? 発言力ということは……それが選挙に絡むわけか。」
「その通り。サードニクスくん自身に対し、仮に生徒会に立候補したならその有名っぷりは後押しになるだろうけど、これは他の特定の候補者にも有効な力なのさ。」
「特定の? なによそれ。」
「生徒会長立候補者さ。」
「はぁ? なんで会長の選挙に関係すんのよ……」
「生徒会長選挙には他の選挙――生徒会の他のメンバーや委員長の選挙には無い項目、応援演説っていうモノがあるんだよ。」
「……それって確か、有名人とか政治家が候補者の良さとかをアピールする為にするあれよね……?」
「そう。自分で言うのもなんだけど、現生徒会長である僕はサードニクスくんを推薦しようとしていて、それは公式には勿論、票を入れる他の生徒たちにも大きな影響を与える。僕が推すのだから間違いない、という風にね。しかしこの「誰かを推薦する」という事ができるのは、それこそ生徒会や委員会に所属するような一部の生徒だけで、全ての候補者が後ろ盾を得られるわけじゃない。それを補う事ができるのが応援演説。推薦者がいるならその人がやるけれど、いないのなら一般の生徒がスピーチしてもオッケーなのさ。」
「ふむ……つまり今や時の人であるロイドくんに自分の応援演説を頼むことができたなら、その候補者は「会長が推薦している」というのと同じような事を票を持つ生徒たちにアピールできるわけか。」
「これまた自分で言うのもなんだけど、会長っていうのはとても魅力的な席だからね。きっと候補者たちはサードニクスくんに接触してくると思うのさ。」



「ロイド・サードニクスね?」

 校外実習――というか火の国で起きた事件の報告の後、大きな深呼吸をしてオレの肩をポンポンと叩き、「大変だったな」と……心配そうな言葉とは裏腹に「またこいつは……」という顔になった先生に見送られた帰り道、オレは見知らぬ女子に声をかけられた。
「実習の報告帰りで悪いけど、ちょっと話いいかしら。」
 服装は……アンジュみたいな改造でもなく、生徒会の会計のプルメリアさんみたいに白衣を羽織っているわけでもない普通の制服姿。緑色の髪を腰の辺りまで伸ばして先端の方で束ね、前髪をティアナみたいに向かって左側に寄せている……のかそこだけ伸ばしているのか、それのせいで顔の半分が隠れている。キリッとした切れ目はこれまた緑色の宝石のようで、目元の泣きぼくろがまた美しい。
 なんで報告の後だと知っているのか――と思ったが、んまぁ、この時期に職員室から出てくる一年生は大抵報告帰りなのだろうとぼんやり考えながら、オレはその人に促されるまま誰もいない教室に移動した。
 オレは使った事のない場所だが、いつも授業を受けている教室に似ているから……たぶん他のクラスや学年が使っているのだろうその部屋は、何故か全てのカーテンを閉じられていて薄暗い。
 ……あれ? よく見たらリボンの色的に二年生だよな、この人。こ、これはあれか、生意気な下級生を呼び出してシメるという噂のあれでは……!?
「あ、あの、それで……オレになんのご用でしょうか……」
「あら、時期を考えれば色々と想像できそうだけど、一年生じゃまだなのかしらね。」
 緊張で気をつけの姿勢になっているオレに対し、その人は机の上に座って……みょ、妙に色っぽく脚を組んだ。
 最近のやらしさ全開のオレの頭が悪いのか、そんなモノを見たせいで改めてその人のスタイルに目が行ってしまったのだが……か、かなりナイスバディな美人さんだ……ああぁぁ……
「貴方にちょっとしたお願いがあるのよね。」
「お、おねがいですか……」
「そ……もしもそれを聞いてくれるなら――」
 色っぽく微笑みながら唇をなぞった指が首、胸と移動し、制服のリボンをしゅるりと解いてぇぇぇ!?!?
「貴方好みの事を――私にしても構わないわよ?」
 広がった胸元の中、両腕に挟まれ持ち上がったそれがむにょんと強調され――むにょんとばぁぁあああぁぁっつ!!
「だから私の――」
「ぶはぁっ!」
 久しぶりのこの感覚。心臓の辺りからせり上がった熱が頭を沸騰させ、顔面の温度が急上昇した瞬間――オレは鼻から噴き出た鮮血の勢いで後ろに倒れた。
「――は、え、ちょ、ちょっとちょっと!」
 ぐるぐる回る視界の中、胸元をゆるませたままというかなり危ない状態のその人は、完全に予想外の事が起きてビックリという顔でオレを覗く。
「いやいやどういう事よ! 貴方、取り巻きの女の子を毎夜とっかえひっかえしてるって話じゃなかったの!? こんなんで鼻血って、何その漫画みたいな反応は!」
 トッカエヒッカエ!? いやいや、そんなことしていませんから!!
 ――と、叫びたかったのだが……よく考えたら、今回の実習、行きの電車の中でティ、ティアナとベッドを共にし、あっちに着いたらアアア、アンジュを抱きしめちゃったりおおお、オソッテしまったりして、帰りの電車ではエリルと……
 ああああああああ! とっかえひっかえじゃないか! オレは――オレって男はなんて……ああぁぁぁ……
「――って気絶してる!? 誰よ『淫靡なる夜の指揮者』とか言ったのは!」



「……ロイド様の感情が揺れていますね……」
「お、なんだ、またバトルか?」
 田舎者の青年が鼻血をふいて倒れた頃、夜の国の王城にある女王との謁見の間にて女王がその顔に憂いを帯び、それを見た巨大なサソリの尻尾を生やした赤い髪の女がわくわくした顔になった。
「いえ、これは久しぶりにロイド様が血を……あぁ、勿体無い……」
「なんだ、鼻血か。帰って早々にやってんなー、あいつ。」
「おいストカ、今は姫様に報告をする場だ。わきまえろ。」
 キシシと笑うサソリの尻尾の女――ストカを注意したのは壁際に立つ者。二本足で立ち上がった巨大なトカゲが仰々しい軍服を着ているような姿のその者がしゅるりと舌をのぞかせつつ赤い眼でストカを睨む。
「すんませんでした!」
「ワタクシが話の腰を折ってしまいましたね。それでストカ、どうでしたか火の国は。」
「んあー、火の魔力でいっぱい……ん? でも特に暑くはなかったな、そういや。あんだけ濃けりゃあ結構温度上がるはずなのに。」
「あそこは街規模で気温の調節をしているのですよ。科学と魔法の両方で。」
「そうなのか。あとはあれだ、でっけー鎧を見たぜ。ガショガショ動いてなかなか強かったぜ。」
「機動鎧装ですね。騎士と一般人の関係に変化を与えるかもしれない火の国の新たな輸出品です。そうですか、完成していましたか。」
「試作機だっつってたけど普通にバトルして――っていうかミラ、俺の報告いるか? もう色々と知ってんじゃねーか。」
「それはまぁ、あちらに潜入しているレギオンの方がいますからね。ですがその方とは異なる立場と視点でストカは見てきたのですから、何か新しい発見があるかもしれません。」
「そういうもんか……潜入といやぁヴァララはどうなったんだ? 俺の知らないところでヤベーのとバトったんだろ?」
「治療中ですが、それが済めば元気になります。おかげで……と言っていいのか、ロイド様を狙う者たちへの認識を改め、ロイド様には護衛をつける事にしました。」
「へぇ、誰が行くんだ?」
「それはまだ決まっていませんが、ヒュブリスのところの夢魔の方々にお願いしようかと思っています。」
「夢魔!? それって淫魔系のアレだろ!? ロイドが催淫されねーか!?」
「全員がそうというわけではありませんよ。それにわずかとは言え吸血鬼性を持つロイド様に催淫は効果がありません。そういう能力の第一人者は確かに夢魔の方々ですけど、二番手にはワタクシたち吸血鬼が位置付けるのですから。」
「んあ? 吸血鬼ってんなエロい種族だったっけか?」
「食べ物の問題ですよ、ストカ。夢魔――この場合は淫魔ですが、彼らの主食は他の生物の精気で、それを放出させるには催淫が効果的。そして血液を吸いたいワタクシたちは生き物の弱点である首を無防備に差し出させる為、同時に鼓動を早めて血液の出を良くする為に催淫が効果的。故に身につき磨かれた能力なのです。」
「催淫のプロに催淫は効かねぇってことか……でも淫魔っつったらこう、ボインボインだろ? そっちに誘惑されたりしねーか?」
「ボインボインで誘惑するのはあなたでしょう……」
 ストカの胸の辺りをジトッと睨む女王。
「心配いりませんよ。夢魔の方々全てがあなたのような姿ではありませんから。それにそもそもの話、ロイド様はそういうモノに誘惑される前に鼻血をふいて倒れてしまいます。」
「そうかぁ? 飛びついたり一緒に風呂入ったりしてもそうはなんなかったぞ?」
「……ストカ……?」
 瞬間、女王の間に満ちた凄まじい圧力に、ストカが田舎者の青年のようにわたわたする。
「お、落ち着けミラ! ほ、ほら、案外と鼻血出さねぇロイドだから淫魔はまずいんじゃねーのか!?」
「…………あなたに対してそうというだけです……まぁ、それはそれで問題なのですけど……」
 先ほどのジトッとした睨みをギロリとしたモノに変えてストカを数秒眺めた女王は、頬杖を突きながらため息をつく。
「……ロイド様の性格的に、というのもありますがそれ以上に……ロイド様のお身体がそういう風になっているのです。」
「? どういうこった?」
「狙ってそうしたわけではありませんが、かつてワタクシが……我慢できずに行ったある事の影響でそうなってしまったのです。そう、あれはロイド様との初めての夜のこと……」



「げ。」
「おや?」
 今回の選挙、特に生徒会長選挙でロイドが狙われるっていうか、その有名っぷりを利用しようと近づいてくる候補者がいるかもしれないって話をデルフから聞いた直後、部室のドアがノックされて、開けてみたら……目をぐるぐるさせてるロイドをおんぶした知らない女がいた。
「きみは確かレイテッドくんの友達のレモンバームくん。」
「と、友達じゃないわよ! ヴェロニカは私の――っていうかどうしてここに会長がいるのかしら!」
「その前に――そのロイドくんはどういう事なのでしょうか?」
 ゆらりと、冷たい笑みを貼り付けたローゼルが女に近づく。
「ロイドがそういう状態になるのって鼻血を噴いた時だよねー。何かしたのー?」
「そうよ鼻血よ! どういう事なのこれは! 話が違うじゃない! 『コンダクター』は毎夜毎晩貴女たちとお楽しみしてるんじゃなかったのかしら!?」
「ロイドくんが……そ、そんなんだったら……苦労はない、です……」
「それよりもやっぱりロイくんに何かしたんだね! 全部吐いてもらうんだから!」
 アンジュの言う通り、ロイドがああいう顔になるのは鼻血の後で……なによ、よく見たらこの女、胸元が開いて……!
「こらこら落ち着くのだよ。クォーツくんは手の炎を収めてね。」
 あたしたちの間にするりと入ったデルフは、ついでに謎の女の背中に乗ってるロイドをするりと奪ってソファに寝かせた。
「まずは自己紹介からじゃないかな。ほらほらレモンバームくん。」
「……私はメリッサ・レモンバームよ……見ての通り二年生。」
 そう言って自分のリボンを指差して胸元が開いてる事に気づいたらしい女――メリッサは別に慌てる事なくリボンを結び直した。
 セイリオスは学年でリボンとかネクタイの色が違ってて、あたしたち一年は赤、二年は緑、三年は青になってるんだけど……緑のリボンがピッタリの髪の色してるわね、こいつ。手入れされた長い髪と割とローゼルに近いくらいのむ――ま、まぁそこそこ美人だわ。
「ふむふむ、私はロイドくんの正妻であるローゼル・リシアンサスだが、それで先輩はロイドくんに何を?」
「どさくさ紛れに何言ってんのよあんたは!」
「大した事じゃないわ。さっきの貴女たちみたいな雰囲気の真ん中にいるのが『コンダクター』で、ロイド・サードニクスは師匠譲りの女好き。だからそれなりの条件を出せば取引できると思ったら……この有様よ。」
「取引? ロイくんとどんな事をしようとしてたの?」
 冷たく笑うローゼルよりも怖い顔をしてるリリーは今にもメリッサの首をかき切りそうな目で睨むんだけど……これはさすが上級生って言うべきなのか、メリッサは何でもないような顔で――デルフの方をチラ見した。
「私の……そうね、端的に言えば身体かしら。その代わりに会長選挙で私の応援演説を頼もうと思ったのよ。」
「やや、早速という事だね。」
 ついさっきその話をしたデルフが自慢げにふふんって笑う。
「か、身体ってあんた……あっさり言うわね……」
「あら、別に鬼畜な極悪人に身体を売ろうってんじゃないのよ? 《オウガスト》の女好きって話もお互いに満足っていうモノらしいし、実際貴女たちが元気なんだからひどい事もされない。私の身体で選挙戦の後押しが得られるなら安いモノだわ。」
「ふむ、ロイドくんがひどい事をしないというのは確かだが……そこまでするモノなのだろうか。」
 ローゼルがぶすっとした顔で腕を組むと、メリッサはやれやれって肩をすくめた。
「貴女たちは去年卒業した前の会長がどうなったのかを知らないから価値が理解できないのね。」
「……どうなったのよ。」
 ――っていう質問を、あたしは現会長に投げかける。
「そうだねー、確か五つの国の国軍から声がかかっていたね。どこも士官の席を用意していたよ。あとは六大騎士団とかの有名騎士団からもお誘いがあったし、面白いのだとうちの娘と結婚してくれーってどこかの貴族が言ってきたりもしてたね。」
「わぁ……す、すごいんですね、か、会長って……」
「個人的にはどうかと思うところだけど、かの名門、セイリオス学院の生徒会長を務めたっていう事実は、世に出た元会長たちの活躍によって勲章のような効果を持っているのさ。だからこの選挙戦に勝って会長になったなら、卒業後は何にでもなれるんじゃないかな。」
「そういうことよ。だから私は……私は、会長になる為にやれることをやろうとしただけよ。」
 ……? なんか今ちょっとだけ言葉に詰まったわね……
「あはは、それでもちょっとやり過ぎかなと思うよ、レモンバームくん。悪徳政治家の裏活動じゃないんだから。」
「誰のせいだと……まぁいいわ。計画とは違うけど『ビックリ箱騎士団』の面々とはこうしてお知り合いにはなれたわけだし、今度は普通に頼むわよ。」
「ロイくん誘惑しといてまだそんな事……」
「貴女がいくら睨んでも決定権はロイド・サードニクスにあるのよ。」
 身体を差し出すとか平気で言うしリリーの殺気にも動じない、そんな色々と大物そうなメリッサは「またね」と言って部室から去っていった。
「レイテッドくんも素直じゃない友達を持っているね。今回の選挙戦は楽しくなりそうだ。これは僕も気合を入れないと。」
 一人うんうん頷いたデルフも、選挙についての話に加えて今みたいな事が起きてしまう現状をロイドに話しておいてと言って上機嫌に部室から出て行った。
 あんだけ大変な戦いがあったっていうのに、騒ぎが尽きないわね……このバカの周りは。



「そ、そんな事が……」
 オレが校外実習の報告をし、謎の先輩からのお色気アタックを受けて倒れている間に起きた事を……みんなからほっぺをつねられた後に聞かされた。
 みんながオレにしてくる……あ、あれやこれやによって――いや、元を辿ればオレの優柔不断が原因なんだろうけど、オレたちは風紀委員長に目をつけられているという話。そろそろ選挙が始まるから、最終的にオレは立候補するのかどうかという話。今や学院内で有名人……になってしまっているオレに、生徒会長選挙における応援演説というのを頼みに立候補者が近づいてくるだろうという話。
 オレにお色気アタックをしかけてきたあの先輩――メリッサ・レモンバームさんはずばり応援演説を頼みに来た人で……風紀委員長に睨まれるほどのオレにはああいう攻撃が効果的というか、あれによって取引ができる――と思われたらしい。
 なんとも心外でフィリウスと一緒にしないで欲しいのだが……とっかえひっかえだし……
「あ、あのですね皆さん。今回の実習を振り返って気づいたんだけど、オレはかなりひどい男になっているので、風紀委員長の件もあるし、反省の為にもしばらくみんなと距離を置いてですね、例えばこの部室でしばらくの寝泊まりを――」
「あ、そうだロイドー。明日からあたしとお泊りデートだからねー。」
「そう、ここでしばらくお泊りを……お泊り? オトマリ!?」
 最近のオレを省みて、現状を考慮して、我ながらよくやったという決心を告げたのだが、それを消し飛ばす爆弾が投下された。
「そだよー。実習期間って事でもうちょっと休みだからさー。ちょーどいーでしょー?」
「い、今のオレの話を聞いていましたでしょうか!?」
「聞いてたけどあんまり意味ないでしょー? あたしとか優等生ちゃんたちが今さら周りの目を気にして手を緩める事はないし、ロイドがひどい男になっちゃったってゆーのはたまたまっていうか、言ってしまえば今に始まった事じゃないしあたしにとってはいい傾向だし、そしたらあとは風紀委員長が何してくるかっていう出方を待って対策を考えるだけで、結局何も変える事はないんだよー。」
 オレの決意を一蹴するアンジュと、うんうんと頷くみんな……あぁ、エリルに強化コンビまで……!
「でで、でもそれはあの――じゃ、じゃあそれはそれとしてどどど、どうしてアンジュ――アンジュと!?」
「単純に次の順番があたしってだけだよー。まさかうちであーんな事をしておいて、しかも途中までなのに他の誰かとお泊りしようっていうのー? 帰りのお姫様の件もホントはダメだったんだからねー。」
「あびゃら――じゅじゅ、順番はたた、確かにかもですけどあの、あ、明日!?」
「ロイドってば、あたしを火照らせておいて放置する気なのー? 早いところ冷ましてもらわないとねー。あ、むしろもっと熱くなっちゃうー?」
「――!!!」
 もうどうしようもない状況になっている事を理解し、どうせ断れないというオレの内なる声も聞こえて……あぁ、ホントにオレは……
「…………わ、わかりました……」
「? 熱くなっちゃうってことー?」
「びゃ、そ、そっちじゃなくてお泊りの方です!!」
「あははー、結局はこっちもそうなりそーだけどねー。」
 ツンツンとアンジュにほっぺをつつかれているオレを怖い顔で睨むエリルや冷たく見つめるローゼルさんたちが視界の隅っこに入る……!
「ふむ……まぁもはやこうなったら全員が一回ずつという状況だからな。一人一人とじっくり話し、やはりローゼルさんが素晴らしいと気づく為の機会だと考える事にして……それでロイドくんは選挙をどうするつもりなのだ?」
「…………さ、最終的にやっぱり――あたし――ってなるに決まってる、けど……! あんたは生徒会に入る気なの?」
 ぎゃあ、ローゼルさんのいつもの感じも相変わらず強力だけど、今のエリルの可愛さは反則――だぁああ、じゃなくてオレ!
「ど、どうかな……というか立候補って言ってもどういう役職があるのかも知らないし……」

「説明しましょうか?」

 普段ならローゼルさんが色々説明してくれるところに、オレたちではない誰かがその役を買って出た。
「! レイテッドさん?」
 いつの間にか、オレたちが座るソファの近くに生徒会副会長のヴェロニカ・レイテッドさんが立っていた。上品な紫色の髪をツインテールにし、エリルくらいか少し小さいかの小柄さながらもキリリとした表情と醸し出す雰囲気が上級生の、そして副会長の威厳を示している。
 オレがアンジュとの話であれこれしている間に訪ねてきたらしく、カラードがドアを開けて中に入れたらしいレイテッドさんは……二人掛けのソファの真ん中で片側から抱きついてくるアンジュと、オレをアンジュから離そうと逆側に抱きついてオレを引っ張るエリルとに挟まれるオレを見下ろしてため息をついた。
「相変わらずですね……風紀委員長も動くわけです。」
「はひ、すみません……えっと、レイテッドさんはど、どういったご用件で……」
「さ、さっきの……レモンバームさんと、同じように……応援演説……ですか……?」
「メリッサが? そうですかやはり……いえ、私は違います。そもそも私の場合は会長が推薦してくれると言っていますし……」
「ふむ、となると今も出た風紀委員長の話だろうか。」
「それも違います。私がここに来たのは……いえ、でしたらおそらく、先にサードニクスさんの質問に答えた方が良さそうですね。」
 そう言いながら……たぶん生徒会だからこの部室の使い方も知っているのだろう、壁のボタンを操作して大きなホワイトボードを壁に出現させた。
「生徒会の役職は会長、副会長、会計、書記、広報、庶務の六つです。生徒会に任される仕事――行事の運営、部活や委員会活動のまとめ、教師の補佐、備品の管理、他学校や騎士団などとの渉外などにおいてそれぞれの役割をこなしていきます。ただし庶務はいわゆる遊撃で、代によっては存在しなかったり、他の役職の選挙で敗れた者を教師や会長が庶務の席に入れるという場合もあります。」
「あん? そこだけ聞くととただの雑用係じゃねーのか、それ。」
 オレも少し思ったけど言わない方がいいのかなと思った事をズバッと言うアレク。対するレイテッドさんは――驚いたことにこくんと頷いた。
「実際その通りです。ただそれ故に全役職に関わる事の出来る唯一のポジションでもあるので、他のメンバー――選挙を勝ち抜いてそれぞれの役職についた優秀な者たちから様々な事を学ぶ為にこの役職を目指すという生徒も過去それなりにいたようです。」
 ああ、それはなんだか気持ちがわかるな。今で言ったら会長のデルフさんと副会長のレイテッドさんはそれぞれの学年でランク戦一位なわけだし、近くにいるだけでも勉強になる事はあるだろう。
「ついでに説明しますが、広報は情報を伝える事と集める事が役割です。各行事の詳細を教師や生徒に伝える事は勿論、親御さんなどに配布される資料を作成したりしますが……広報最大の利点は後者――情報収集の面でしょう。歴代生徒会メンバーとの情報網の管理を任される事になるので、卒業もその情報網、もしくはそこから更に発展して新たなパイプをつないでいけたりします。」
 情報網……もしかしてデルフさんのあの異常な情報通っぷりはそこから来ているのだろうか……
「書記は各会議の議事や書類の作成を任されています。広報のようにすぐさま役立つ何かを得られるわけではないのですが、業務上――いえ、セイリオス学院という騎士学校の立ち位置上、扱う書類はごく一般的な契約書から国政の場で使われる公文書まで様々です。普通に学生をやって普通に騎士になるという道では決して触れる事のないレベルの書類に触れますから、一年も経てばそういった文書の専門家になります。国王軍であれ騎士団であれ、国に認められて活動する以上はこういった書類とは無縁ではないですから、将来自分の騎士団を持ちたいと考えている生徒などが、短期間でそういう知識を学ぶ為に立候補したりしますね。」
 ……逆に、名門セイリオスの書記だったとなれば強さに加えて面倒……そうな書類関係も出来ちゃう人材なわけで、そういった意味でも引っ張りだこになるのかもしれないな。
「会計は文字通り、予算などの管理が仕事です。先の書記同様、どんな組織にも金銭管理が必要ですから、関連する知識や経験を得る事ができますね。加えて会計には唯一の特権――セイリオス学院という後ろ盾がある状態での商売を許可されています。」
「何それ! すごい!」
 そう反応したのはもちろんリリーちゃん。
「生徒会に集うのは学生とは言え優秀な者たちですからね。折角チームとなったのに何もないでは勿体ない――という何代か前の学院長の意見により、利益の一部を学院側に入れるという条件で生徒会や学院の名前を使っても良いとなったそうです。歴代の会計の中には一年間の任期で一財産稼いだ方もいたとか。」
「そりゃそうだよ! セイリオスのネームバリューを正式に使えるなんて、腕利きの商人の手にかかれば一年で貴族にだってなれちゃうよ!」
 何をどうすればそんなにお金持ちになるのかさっぱりだけど……リリーちゃんが言うんだから間違いない。さっきの書類とは別方向にお金も大事なモノだし……会計になる事の利点は大きそうだ。
「副会長は会長の補佐です。会長は広報、書記、会計がそれぞれに担当している事以外の全て――学院内の統制や行事のかじ取りの他、セイリオス学院の代表として学外のあらゆる事に関与して物事を進めるのですが、その負荷は非常に大きい為、専属の援護として副会長が存在して……いるのですが……」
 淡々と各役職について解説してくれていたレイテッドさんの表情がふと暗くなる。
「デルフ会長は……ええ、それはそれは騎士としても統率者としても才能に溢れた人物なのですが、自分が企画した事や興味のある事にしかそのリーダーシップは発揮されず、会長が乗り気にならない案件は一から十まで私が担当していまして……学院内ではそうは見えないでしょうが、学外の一部の方々からは私が生徒会長であると誤解される始末……」
 かなりの頻度でレイテッドさんに引きずられて去っていくデルフさんを思い出し、現在の生徒会の内情が今の話と合わせて想像できてしまった。大変だなぁ、レイテッドさん……
「……ああいえ、愚痴のようになってしまいましたね……以上が生徒会を構成する各役職の仕事です。来年卒業してしまう三年生を除く一、二年の全生徒に全ての役職に対しての立候補が認められており、前任者も継続しようと思ったら再度選挙を勝ち抜かなくてはなりません。」
「えぇっと……もしも誰も候補者がいなかったらどうなるんですか?」
「……ほとんどありませんが、庶務の場合は先ほど言った通りその席が無くなったり、他のメンバーが誰かを推薦して入れたりします。他の役職は、前任がいるならその者が継続し、もしも前任が三年生の場合は他のメンバーからの推薦などで決め、庶務のように無くなることはありません。」
 ……自分で聞いておいてなんだけど、たぶんレイテッドさんの言う通り、候補者がいないという事はないのだろう。生徒会に入る事ができればその先の道が大きく広がるし、騎士としても成長できる事は確実なのだから、きっとどの役職にも候補者がたくさんいてそこを勝ち抜いた人が……
 ……ん? 勝ち抜くと言えば、前に先生が……
「あの、確か先生が選挙はミニランク戦になるって言っていたんですけど、選挙で試合をするんですか?」
「委員会の長の選挙もそうなのですが、全ては立候補者以外の生徒からの投票数で決まります。故に立候補者は自分をアピールする為に中庭でスピーチしたりポスターを作ったりするわけですが、ここは騎士の学校――最大のアピールポイントは自身の強さです。結果、大抵の立候補者は自分の強さを示す為に対立した立候補者と試合を行います。学院における成績には一切関係のないモノですが、選挙管理委員が場所や時間を調節して多くの生徒が観戦できるようにするので半分公式戦のようになり……ゆえにミニランク戦と呼ばれるのです。」
「なるほど……えっと、そういうアピール合戦の中で……会長選挙にだけ応援演説っていうのがあるわけですか。」
「会長選挙の場合は全校生徒を対象にした立候補者のスピーチの時間が設けられますから、その時に一緒に行われるのが応援演説なのです。」
 全校生徒に……そりゃまぁセイリオス学院の顔を決めるようなモノだし、他の選挙とは力の入れ方が違うのは当然か……
「それで――ここから本題ですが、今話したように会長選挙でもミニランク戦が行われます。勝敗がそのまま選挙の勝ち負けになるわけではありませんが、得票数に影響が出ることは確実です。会長からの推薦があるとは言え……いえ、あるからこそ、私は他の立候補者との戦いに負けるわけにはいかないのです。」
 そうか……デルフさんの推薦というのは大きな力だけど、それに相応しいという事を示せなければ逆に大きなデメリットになりかねないのか。
「故に私はここに――『ビックリ箱騎士団』の部室にやってきたのです。」
「? えぇっと……あ、もしかしてみんなに教えたフィリウスの体術を教わりたいという事ですか?」
「時間があればそれも頼んだかもしれませんが、選挙は間近ですから……私はキッカケを得に来たのです。」
「キッカケ?」
「騎士がその強さを一段階上げる機会として、自分よりも格上との戦闘は非常に効果的です。今まで気づきもしなかったちょっとした事をその相手に見つけ、それを吸収して強くなる……時間をかけた修練に勝るとも劣らない貴重な経験です。」
「それはそうですけど……え、で、でもオレたちとレイテッドさんじゃあレイテッドさんの方が強いような……」
「それはわかりませんが、私が言いたいのはそこではありません。あなた方はこの名門と言われるセイリオス学院でも類を見ない、質の高い戦いを数多く経験している生徒です。魔法生物との戦闘はともかく、A級、S級犯罪者との戦闘を現段階で体験済みというのは凄い事で、それらの経験は確実にあなた方をレベルアップさせたはずです。実際、シリカ勲章にまで至っているわけですしね。」
 ……勲章を貰えたのはエリルがたまたま王族だったからっていう気がするけど……今まで経験した色んな戦いがオレたちの成長のキッカケとなっているのは確かだろう。
「そうした稀有な経験からあなた方が吸収したモノを、あなた方と戦う事で体験したいのです。短い時間で強くなるキッカケを得られるとしたらこれしかありません。」
「ふーん。」
 会計の話の辺りから悪巧みするような顔でレイテッドさんの話を聞いていたリリーちゃんがふと真面目な顔になる。
「ボクたちと戦う事で普通に学生やってたんじゃ得られないような技術を学べるかもっていうのは理解できるし、それが選挙までの短い間で強くなれる可能性の高い方法っていうのもわかったよ。ボクたちも二年生ランク戦一位と戦えるならそれもまた強くなる経験になるからお互いに利益があるけど――でも、明らかにそっちの方が得るモノが大きいよね? つり合いを取る為に、あとどんな事をボクたちにしてくれるのかな?」
 すぅっと目を細めてレイテッドさんを見るリリーちゃんは完全に商人の顔。
 ああ、我ら『ビックリ箱騎士団』の「会計」は間違いなくリリーちゃんだなぁ……
「……仮にあなた方から何かを得られた場合、それは選挙戦に限らずこの先も私を支える力の一つとなるでしょうから、その価値は非常に大きなモノです。それに見合う何かとなると、正直私には見当がつきません。あなたと取引の駆け引きで勝てるとも思いませんし……私の副会長としての権限、将来的には会長としての裁量で、出来ることを約束しましょう。」
「あはは、それだと天秤がひっくり返るくらいの条件になっちゃうね。商人相手に「欲しいモノを何でも言って下さい」っていうのは危険だよ?」
「構いません。確かにあなた個人に対してそういう取引は危険な気がしますが、私が不利になりすぎる場合はきっとあなたの旦那さんがやんわりと緩めてくれるでしょう。」
 そう言ってオレを見るレイテッドさ――レイテッドさんっ!?!?
「旦那さん……うふふ、わかってるなー、もう。」
 商人の顔が一瞬でとろけるリリーちゃん……あれ、もしかして今レイテッドさんはオレを使う事でリリーちゃんをいい感じに抑えたのでは……?
「それでどうですか? おそらく最終的な決定権はサードニクスさんにあると思いますが。」
 レイテッドさんの言葉を受け、オレはみんなの方を見る。リリーちゃんはああ言ったけど、戦えるだけでもオレたちにとっては大きなチャンスなわけで、みんなはこくんと頷いた。
「えぇっと、さっきリリーちゃんが言ったように副会長と一試合できるっていうのはオレたちとしても有難い事ですから……で、でもその戦いでレイテッドさんがキッカケを得られるかどうかはわかりませんよ……?」
 別に何も得られなかったからと言って怒るような人ではないと思うのだが、おずおずとそう言ったオレに、レイテッドさんは――
「ふふ、それは私次第ですね。」
 ――くすりとほほ笑みながら、今までに見た事のない綺麗な笑顔を向けた。
「では早速と行きたいところですが、あなた方は実習から戻ったばかりですからね。一年生の通常授業が再開してからとしましょう。ではまた。」
 くるりと紫のツインテールを舞わせて、レイテッドさんは部室から去って行った。
 おお、なんだろう今の笑顔は。いつもキリッとしているから余計にドキッとイテテテテ!!
「ロイドー、今副会長にドキッとしたでしょー?」
「へ!? ほ、ほんらこほは!」
「明日からのデートは覚悟しといてよねー。」
「びゃっ!」



「ただいまー……おや、お客さんだね?」
 セイリオス学院の生徒会室。田舎者の青年を中心に出来上がった『ビックリ箱騎士団』の部室から戻った現生徒会長、デルフ・ソグディアナイトはソファに座って絵具を溶かしたような水色の液体の入ったコップと睨めっこしている人物を見てそう言った。
「あ、デルフてめ、ようやく戻って来たな!」
 謎の液体の入ったコップをテーブルに叩きつけながら客人はデルフを睨みつけた。
 ワックスを使っているのか生まれつきそういう髪質なのか、本来下に垂れ下がるはずの髪の毛が全て上を向いている髪型で小さな子供が見たら泣き出しかねないガンを飛ばし、制服を乱暴にはだけさせた姿はどうみても不良学生の外見なのだが――
「やぁ、選挙管理委員長。任期を迎えて後任を待つだけの生徒会に何のようかな?」
 デルフは、その男子生徒を選挙において極めて重要な役職で呼んだ。
「てめぇに用があんだよボケ! 言わなくてもわかってんだろ!」
「はて何のことかな。プルメリアくん、僕にも飲み物をくれるかい?」
「んー。」
 選挙管理委員長の向かいに座ったデルフの頼み事に返事をしたのは壁際にある流し台に立っていた女子生徒。茶色の混じった金髪をボリュームのある複雑な髪型にし、ビン底メガネのようなモノを頭にのっけて白衣を羽織っているその女子生徒は、手首などにぶら下がっているアクセサリーをチャラチャラ鳴らしながら「会長」と書いてあるコップにビーカーに入った水色の液体を注いでデルフの前に置いた。
「プルメリアくん、ちなみにこれはなんだい?」
「チョーっと濃いめのミネラルウォーターみたいな感じ?」
「透明が濃くなっても透明なはずだけどね。」
 そう言いながらも謎の液体でゴクリとのどを潤したデルフは、「うげぇ」という顔をしている選挙管理委員長に尋ねる。
「さて、僕に用とは?」
「とぼけんじゃねぇぞ女顔! てめぇの企画に対するクレームだバカ! この忙しい時期にとんでもねぇモンぶつけてんじゃねぇぞ!」
 何かの資料をテーブルに叩きつける選挙管理委員長だが、デルフはどこから出したのか、手鏡で自分の顔を見る。
「女顔はひどいなぁ……遠目だと女の子に見えるってだけだろう? これでもイケメンな生徒会長で通っているんだよ?」
「顔はどーでもいんだよ! 質問に答えやがれ!」
「どうして今やるのかって事かい? まー、生徒会長の締めくくりとして次代の為に何かを示せればいいなーっていうのと、やっぱり最後はド派手に終わりたいからかな。」
「主に後者の理由だろ、このお祭り好きが!」
「いやぁ、それほどでも。」
「迷惑っつってんだアホ!」
 立ち上がって怒鳴り散らしている自分に対してのほほんと座っているデルフを数秒睨みつけた後、選挙管理委員長は大きなため息をついてドカッと腰を下ろした。
「――ったく……そもそもこれ、交流祭でやってんだろうがよ。あれで満足しとけよ。」
「満足? ふふふ、何を言っているんだい選挙管理委員長。交流祭はそれだけで終わらない、キッカケにもなるイベントさ。あれから日も経ち、彼らは更なる強さを得ているはずさ。」
「んだよ、強い奴とやり合いてーってか? お前そんなに戦闘狂だったっけか?」
「結果的にはそうかもしれないけど、正確に言うなら強い人と戦いたいんじゃなくて、戦って強くなりたいのさ。」
「セイリオス学院の頂点に立つ男が何言ってんだ。まだ足りねぇってか?」
「足りないね、全然。」
 その一言の時、選挙管理委員長はゆるい雰囲気で話していたデルフのにこやかな笑顔の裏からにじみ出た何かにゾクッと背筋を震わせた。
「で、でもお前、日も経ちっつっても一、二か月だぞ? んな変わるかよ。」
「男子三日合わざれば刮目して見よ、だよ。これが騎士なら刮目せざるを得ないというモノさ。」
「? 二人は女だろ。」
「あはは、ここで言う男子は「人」という意味だよ。」
 ふふふと笑ったデルフは、ふと真面目な顔になって――すぅっと、選挙管理委員長に頭を下げた。
「迷惑なのは承知している。選挙に変な影響が出ないとは言い切れないのも理解している。けれどこれはやっておきたい事なんだ。生徒会長という強権に僕の我がままを乗っけたモノだけど――どうかお願いしたい。」
 その状態で静止したデルフを見て、選挙管理委員長はやれやれというあきれ顔になる。
「……軽々しく頭下げんなバカが。てめぇのそれはこんなところで使うほど安くねぇぞ。」
 水色の液体をグイッと一気飲みし、選挙管理委員長は持ってきた資料を取って立ち上がった。
「とりあえず了解しといてやる。ただし……二つを独立させるつもりはねぇからな。」
「おや、それはまた楽しそうだね。」
「ちっ、楽しそうな顔しやがって。」
 にこやかな顔に戻ったデルフを見下ろして舌打ちをした選挙管理委員長は、ドアの方に身体を向けた後――くるりと向きを戻してコップを手にし、壁際にいた白衣の女子生徒に言った。
「……もう一杯くれねぇか?」



 デルフさんやレイテッドさんから選挙についてのあれこれを聞いた次の日。心の準備をする暇もなく決定して実行されたアンジュとのお、お泊りデート。十割増しにムスッとしているエリルや同様にムスッとしているみんなに睨まれながら、しぶしぶ顔のリリーちゃんの『テレポート』によってオレとアンジュは……再び火の国にやってきていた。
「火の国の楽しいところはヴィルード火山の麓の首都のベイクだけじゃないっていうか、一般的にはこっちの方が観光地としては流行ってるんだよねー。」
 オレたちがいるのはヴィルード火山が少し離れた所に見える場所にある……いわゆる温泉街。地理というか、大地の構成について詳しくはないけれど、これだけ離れていてもお湯が沸き上がるほどの熱が地下にはあるようだ。
「優等生ちゃんが直球にデートして、商人ちゃんがおうちデートだったでしょー? だからあたしは温泉でのんびりする落ち着いたデートにしてみたんだー。」
「う、うん……いいと思います……」
「そーおー? じゃあまず最初の温泉は――」
「さ、最初の? 温泉は旅館とかで最後に入るんじゃあ……」
「わー、ロイドってばもー旅館の話ー? そんなに夜が待ちきれないのー?」
 つついと肩を寄せてくるアンジュ……!
「や、ば、そうではなくてですね!」
「んふふー、ここの観光スポットは温泉なんだから温泉巡りをしなきゃ来た意味がないでしょー? だから色んな効果のある面白い温泉にたくさん入るんだよー。一緒にねー。」
「イッショ!? そ、それはまさかコンヨク――」
「うーん正確にはちょっと違うかなー。それぞれの温泉を時間帯で貸し切って二人だけにしてるから、本来は混浴じゃないところにも二人で入ったりする予定で――」
「貸し切り!?!? そそ、それはどういう事ですか!?」
「あのねーロイドー、あたしってこの国で二番目に権力のある家の一人娘なんだよー? ワルプルガから帰る時、実習の残りの期間でお泊りするって決めてたからおとーさんに頼んでおいたんだよー。」
「その時からお泊りが決まって――い、いや、という事はここ、これから行く温泉全てでアンジュとふふ、二人きり!?!?」
「そだよー。ほらほら、時間帯で貸し切ってるって言ったでしょー? 最初の所に行くよー。」
「あびゃ! ま、まだ心の準備が――」
 ――と、デート開始早々にハハ、ハダカの付き合いが始まるとわかって頭の中が一気に桃色だか肌色だかになったオレだったが――
「はい、まずはここー。足湯だよー。」
「アシユ……は、はぁ……足湯か……」
 とりあえず一発目は足湯で一安心……い、いや、それでも貸し切りで二人で今のオレはラッキースケベ状態で……
 ……うん? そういえば、ラッキースケベ状態のはずなのに今のところ――れ、列車の中でのエリルとのあれこれ以外は特に何も起きていない。もしや前回のような――ロロ、ローゼルさんとのデートの時みたいなヤバイのはもうなかったりするのでは……!?
「はふー、きもちいーねー。」
「そ、そうですね……」
 よ、よし、病は気からとも言うし、そういう事を考えているからああいう事が起きるのだぞ、オレ。ここは普通の……デ、デートっぽくするのだ……!
「跳んだり走ったり、戦うのって脚が疲れるよねー。」
「うん……ああそうだ、脚と言えば――」
「えー? ロイドってば脚フェチだったのー?」
 ススーッと、今日もまた相変わらず短いスカートから伸びる脚を……お湯に入る為に靴下をとった生足を抱えて色っぽく笑うアンジュ……!!
「そそ、そうじゃなくて! 先生から聞いたんだけど、フェンネルさんの二つ名は『紅蓮脚』だったって。」
「あー、そーいえばそんな事言ってた気がするねー。あたしからすると『紅蓮脚』っていうよりは『爆弾脚』だけどねー。」
「爆弾?」
「師匠のキックって当たった瞬間に起爆して相手にダメージを与えるっていう技なんだよー。」
「起爆……もしかしてアンジュの『ヒートボム』とか『ヒートコート』ってフェンネルさんの魔法を参考にしているの?」
「そだねー。ただ師匠の場合はもっと凄くて、爆発の威力の全部を相手に与えてるんだよねー。キックした時の衝撃はどうしようもないけど、爆発のダメージを自分で受けちゃうって事はないんだよー。しかも筋肉くんみたいに威力を一瞬一点に凝縮するからパワーがハネ上がるしねー。」
「それであんなとんでもない威力になってたのか……しかもそんな細かい制御を空を飛ぶための炎を出しながらやっていたって事は、やっぱりフェンネルさんはすごい人なんだね。」
「ロイドの師匠の方がすごい人でしょー?」
「うーん……でもフィリウスが十二騎士っていうのは学院に入ってから知った事だし、師匠としてのフィリウスは体術を教えてる記憶しかないんだよ。本気の時の戦い方も知らないから、未だにピンと来ないんだよね。」
「十二騎士のトーナメントも近いし、そこで見れるんじゃないかなー。」
「うん……ちょっと楽しみだよ。」
「師匠も出場すればなー。今の《エイプリル》に勝てるかどうかはわかんないけど、結構いいところまで行くと思うんだよねー。」

 足でお湯をパチャパチャしながら何でもない事を話すオレとアンジュ。みんなとは……その、れれれ、恋愛的な方面はあれとして、出会ってから結構仲良くなっているわけだけど、一対一で話すとなると機会はなかなか無い。ローゼルさんやリリーちゃんともお泊りデートを通して……い、いや、あっちの方は置いておいて、結構色んな話をする事ができていて……や、やらしー意味合いを抜きに、この試練――じゃなくてイベントはいいモノ……だ。

「あ、そろそろ時間だねー。移動するよロイドー。」
「うん。次はどんな――ばっ!」

 湯の中で立ち上がり、そこから出る為に一段上がろうとした瞬間、オレの脚は想定よりも上がらなかったというか、思いほか段が高かったというか、オレはそこに蹴躓き――

「あびゃら!」
「ひゃっ!」

 アンジュを巻き込んでズデンと倒れた。そして聞こえてきたアンジュの……あの、ヤバ気な声でこれがラッキースケベであると気づき、状況確認に目を走らせる。
 右手でアンジュの肩を掴んで盛大に押し倒している……それくらいならまだ何とかというところなのだが問題は――オレのひひ、左手がアンジュのふふ、服の中に入っていて、手の感触からしてその位置は――胸の、下着の、ウチガワッ!!
 ついでに! オレの脚がアンジュの短いスカートを押し上げてしし下着が! ミエテイル!

「ば、ば、ば――」
「……ロイドー……」
 すぐさま手を引っ込めるべきところだろうが、それをするとその過程で更に色々触れるのではなかろうかと変な推測がたった――からなのか、オレのスケベ心が柔らかな感触から離れるのを拒んだのか、そのまま固まったオレを見上げるアンジュは恥ずかしそうにとろんとした顔で――

「あたし、このまま襲われちゃう感じー?」

 ――という、若干挑発の混じったあああああぁぁっ!
「すみませんっ!!!」
 我に返ったオレは手と脚を引っ込めて後方に数メートルジャンプした。
「んふふ、早速きたねー……」
 乱れた服を直しながら起き上がったアンジュは色っぽく息を吐きながら立ち上がった。
「一応言っておくけど、今みたいな事や今以上の事をしても別に謝らなくていーからねー。」
「びゃ、あの、ごご、ごめ――」
「だから謝らなくて――あ、そうだ。このデート内であたしに謝ったら減点……ううん、加点一ポイントねー。」
「あば!?」
「ポイントの分だけ今晩――色々してもらうからねー。」
 いつかのローゼルさんとのデートであったペナルティーシステムが再び!!
「ほらほら次に行くよー。ちなみに後は全部普通の温泉だからねー。」
「えぇっ!?!?」
「裸のつきあいだよー、んふふー。」



「火の国ってアンジュちゃんのテリトリーだから……ああ、ロイくん大丈夫かな……」
 実習期間っていうちょっとした休みを使ったお泊りデートに出発したバカとアンジュを睨んで見送った後、あたしたち――強化コンビを除いた『ビックリ箱騎士団』はあたしの部屋に集まってた。
「自分の部屋に監禁してお泊りデートを過ごしたリリーくんがテリトリーだの言うのはなんだかあれだが……まぁ、もはやロイドくんが何もやらかさないという事はないだろうから、ここでモヤモヤしていても仕方あるまいよ。」
「……ロイドのベッドの上で転がりながら何言ってんのよ……」
「ロゼちゃんずるい……」
 ロイドが使ってる椅子に座ってジトッと見つめるティアナに、ローゼルは小難しい顔を返す。
「ふぅむ……これで残すはティアナだけなのか……」
「……あたしも……まだしてないわよ……デート……」
「なぬ? つい二日前にあれこれしたというのにまだ足りないとは、エリルくんのスケベめ。」
「あんたにどうこう言われたくないわよ!」
「まぁエリルくんのムッツリ具合はともかく、最後がティアナというのが……今更ながらまずい気がしてならない。」
「あ、あたしが……? ど、どうして……ロゼちゃん……」
「ティアナはここぞという時にとんでもない事をするからな。わたしたちの自慢話を聞いてどんな事を考えているのか……行きの列車でも何かしていたようだしな。」
「……ひ、秘密だよ……」
 ひっそりと笑うティアナ……確かに普段からグイグイやってるローゼルとかよりもいつもは何もしないティアナみたいなのにこそ警戒するべきなのかもしれな――

「あぁ、なんと羨ましい事でしょう。」

「わば! カ、カーミラくん!?」
 ロイドのベッドに寝転がってたローゼルの横に黒いドレスの女――カーミラが突然現れ、ローゼルがロイドみたいな声をあげてベッドから転がり落ちた。
「しかし先日のヴィルード火山にてロイド様はワタクシとのデートを約束してくださいましたからね……一緒のお風呂も……ふふふ、この火照りはその時にロイド様に――あぁ、楽しみですね。」
 当たり前のようにベッドに腰かけてうっとり揺れるカーミラが、ふとロイドの枕に目を留めて妙な思案顔になったところで、ローゼルが制服を整えながら立ち上がる。
「ま、まったく、毎度突然現れるな、この女王様は。それでカーミラくんは何をしに来たのだ? 生憎だがロイドくんはいないぞ。」
「ええ、存じています。ですからここに来る予定はなかったのですが……ある件について、ストカに言われて気がついた事がありまして。」
「何よそれ。もしかしてマグマの中から回収したあの金属の塊のこと?」
 ロイドのご先祖様のマトリアが使ってたっていうベルナークシリーズの剣を引き上げる時に一緒に見つかった金属の塊。マトリアが言うにはベルナークシリーズの材料になる特殊な金属らしくて、ロイドはそれの管理をスピエルドルフに頼んだのよね。
「あちらに関しては鍛冶屋の方々が加工方法を確立しつつありますのでしばしお待ちを。そしてワタクシがここに来たのは……ロイド様ではなく皆様にある事をお伝えする為です。」
「ほう、わたしたちにとな。」
「ズバリ、これ以上ロイド様を巡る戦いにライバルを増やさない為に知っておくべきロイド様の体質についてです。」
「はぁ? ロイドの体質?」
「正確には……後天的にワタクシが付与してしまったロイド様のお身体のある反応についてです。」



 温泉でのぼせつつあるというのもあるがそれが主ではなく、足湯から始まって今夜のお宿である旅館の温泉に浸かる今現在までに起きた数々のラッキースケベによって頭がぼぅっとしているオレの横でアンジュが呟く。
「帰りの電車でさー。ロイドがお姫様とイチャイチャしてから昨日まで、それなりにチャンスはあったと思うんだけどロイドのラッキースケベは発動しなかったでしょー? 寮の部屋でお姫様と何かあったわけでもなさそーだし、この前みたいのはもうないのかなーって思ったりもしてたんだけど、全然そんな事なかったねー。」
 長湯するのにちょうどいいぬるま湯の中、それぞれにタオルを一枚巻いただけのオレとアンジュはぴぴぴ、ぴったりと肩をくっつけて……!
「下着をのぞくとか胸に触れるとかそーゆーんじゃなくてさー。貸し切りで誰もいないからってさー……一つの温泉につき最低五回は転んだり滑ったりしてあたしに……あんな事やそんな事しちゃってさー……優等生ちゃんが自慢してたのよりも凄かった気がするよー……?」
 何でもないようにしゃべっている風だが……その実、アンジュはとろりとした顔でほほを赤らめてうっとりとオレを見つめて……ミツメテ!
「ホントにもー……あんな格好であんな状態で、今日何回チューしただろーねー?」
「はひ……すみませ――」
「はい一点。」
 嬉しそうに笑うアンジュ……!!
「あ、そうだー。今の内に聞いておきたいんだけど――ロイドはあたしのどこが好きなのー?」
「どびょば!?!?」
「この前あたしがロイドを好きな理由は話したし、あたしはあの死人顔くんの魔法でロイドがあたしを好きになった理由をもう知ってはいるんだけどさー。やっぱり直接口から聞きたいよねー?」
「チョクセツ!」
 今に至るまでのあらゆるあれこれで崩壊寸前の理性に別角度からの鋭いパンチ。こんな状態でしかも温泉に二人だけの状況でそんな事話し始めたら爆発してしまう!
「そそそ、それは――ま、また後でというわけには……」
「ふーん? ベッドの中でじっくり教えてあげるってことー?」
「びゃっ!」
「んふふー。楽しみだなー。」
 ぴとっと頭をオレの肩にのっけたアンジュは、とろけるようだった声をすぅっといつもの調子に戻し、ゆったりと呟き始めた。
「この後の為に先回りしておくとねー……今のロイドはあたしに色々な事を想ってくれてるけど、たぶん一番最初のキッカケはあたしの告白で……いわゆる好きって言われたから好きになっちゃったっていう感じなんだよー。でもねー、もしもお姫様と優等生ちゃんとスナイパーちゃんと商人ちゃんがいなくてあたしとロイドの二人だけだったら、あたしたちはすっごいラブラブカップルになってたと思うんだよー。」
「ラバッ!?!?」
「でもそれって他のみんなにも言えることで、そんな関係になっちゃうような相手がたくさんいるのが今の状況でしょー? ロイドは自分をよく優柔不断のドスケベ野郎って感じに言うけど、そうなったってしょうがない状態なんじゃないかなーって思うんだよー。」
「しょ、しょうがない――というので済ますのはい、いかがなものかと……」
「いーんだよー、それでー。ただし……ね……」
 するりと腕をまわし、オレとの密着度を更に上げながらアンジュが……アンジュが耳元でササヤク!

「やらしーとか思うのを通り越して、一人一人を――今ならあたしを、全力で愛してねー。」

 ああぁあぁぁぁ……!!



 田舎者の青年の理性が崩れ落ちている頃、フェルブランド王国に七つある騎士学校の一つ、カペラ女学園の屋敷のような校舎に囲まれた優雅な庭園の一角のテラスになっている場所で、螺旋を描く金髪を揺らしながら一人の女子生徒が紅茶を飲みながら手紙を読んでいた。
「なんともまぁ、相変わらず読めない事をしますわね、『神速』は。」
「だよなぁー! かー、さすがルビルんとこの生徒だぜ!」
 落ち着いた雰囲気の漂う金髪の女子生徒の前、ズズズと音をたてながら紅茶を飲んでいるのはギザギザ模様の入った中折れ帽子をかぶった女。制服姿の女子生徒とは違ってパンツスタイルのその女は、ギザギザに尖っている歯をギラリとさせて嬉しそうに笑った。
「『神速』は『雷槍』の生徒さんというわけではなかったはずですわ。」
「細けーこと気にすんな! でどーする?」
「勿論お受けしますわ。校長が許可を下さるのなら。」
「許可しないわけねーだろ、こんな面白そうな事! セイリオスをじっくり見学できるいい機会だし、追加で何人か連れてけよ。」
「そうですわね……」
「キシシ、何考えこんでんだ? どうせ一人はあたしの弟だろーがよ。」
「な、いえ、別にそんな……」
 赤くなった女子生徒を見て更に笑った女は、グーッと伸びをして傍においてあった槍を手に取った。
「どうせならあたしらもやりてーなぁ。ええおい、ルビルよ。」



「あぁ? 兄貴、それなんだ?」
 セイリオス学院やカペラ女学園などとは全く異なる、まるで監獄のような校舎であるリゲル騎士学校のとある一室にて、筋トレ用のベンチに腰掛けて写真集を眺めていた上半身裸の男が窓際の席に座る眼鏡をかけた金髪の男に話しかけた。
「デルフからの手紙だ。どうやら生徒会長の任期の最後に大きなイベントを開催するらしい。」
「? なんでそんな知らせが兄貴にくんだよ。」
「自分に参加して欲しいそうだ。」
「んだそれ。なんで他校のイベントに兄貴が出張るんだよ。」
「イベントのメインが自分たちだからだ。」
「! おいおい、んじゃもしかして交流祭みてーな事をやるってのか!?」
「そうらしい。」
「面白そーじゃねーか! おれさまも行っていーか!?」
「……お前の事だからこの前の仕返しを考えているのだろうがやめておけよ。」
「だ、ちげーよ!」
「言っておくが、お前を氷漬けにして恐怖症に近いモノを植え付けたあの女子生徒は今やシリカ勲章の保持者だ。実力的にも離れている上に、そういう人物に要らぬちょっかいを出せば公的な罰を受けかねん。」
「ちげーつってんだろうが! 単に兄貴のリベンジを見てぇだけだ!」
「リベンジか……確かに、負けたままで卒業というのは後味が悪いと思っていたところだ。」
「だろ!? 兄貴の魔法は最強ってとこを見せつけようぜ!」



「ア、アフェランドラさん、どうしたんですか? なんだか嬉しそうですけど……」
 外観としてはセイリオス学院に近い雰囲気を持つプロキオン騎士学校の食堂にて、昼食を食べながら手紙を広げた長い髪の女子生徒に、その正面に座る小柄な男子生徒がおずおずと話しかけた。
「おっと、すまないな、食事中に。」
「いえ、セイリオス学院からの手紙ならぼくも気になりますし……どんな内容か聞いていいですか……?」
「セイリオスの会長が最後にお祭りを開きたいという事だ。カペラとリゲルにも同様の誘いをしているらしい。」
「交流祭ってことですか……?」
「いや、これはあくまでソグディアナイトが個人的に企画した催し物だな。どうやらセイリオスにおける生徒会長の権限は相当大きいらしい。」
「学校によって結構違うんですね……えっと、それじゃあセイリオスに行くんですか?」
「学校に許可をもらってからだが、是非参加したいと思うよ。」
 ニッコリと、以前の彼女であれば見せなかった表情にドキリとした男子生徒は挙動不審に視線を泳がせ、わざとらしくモグモグと昼食を口に運ぶ。
「それに……更にレベルアップしたらしい戦友の顔もみたい。」
「! そういえばそうでした! どれくらい強くなってるんでしょうね!」
「ああ、楽しみだ。」



 セイリオス学院と友好関係にある三校の生徒会長が受け取った手紙を読んでいる頃、送り主であるセイリオス学院生徒会長、デルフ・ソグディアナイトは生徒会室の自分の椅子に寄りかかって天井を眺めていた。
「一先ずの区切り。学生としてやれる事、学生だからこそ出来る事は全てやった。これと最後のランク戦でどこまで強くなれるか……焦りは禁物とは言え、ひょんなところから目標の名前が出てきてしまった今、なかなかに抑えがたいモノがある。」
 目を閉じて、思い返す。自分の憧れだった騎士、比類なき無双の戦士たちが腕の一振りで蹴散らされていく光景。張り巡らされた糸を伝う彼らの鮮血。その中心で何事もないように、歩いていたら虫を踏んづけてしまった程度の感情しか抱いていない八つ目の人物。
 自分が歩むはずだった道を絶ち、別の人生へと導いた存在。今の自分が生きる理由。
「……落ち着け……まだ早すぎる。今の僕では決して勝てない……積み上げるんだ、力を。」
 普段からは想像できない鬼気迫る表情で呟いた彼は、すっと立ち上がって窓の外を見た。
「さあさあ、僕プロデュースの最後のお祭りさ。楽しんでいこうじゃないか。」

騎士物語 第九話 ~選挙戦~ 第一章 会長の下準備

生徒会メンバーと各委員会の委員長を決める選挙。それと同時に行われようとしているデルフの企画。学院内がドタバタとしそうな予感です。

そんな中でも約束のデートに臨んでいくロイドくんたちはブレませんが、学院内で独自の空気を作って来た『ビックリ箱騎士団』に他の生徒たちが接触してくる事になるので、これまた一騒ぎありそうですね。

最近は悪党たちや魔法生物の強者が登場していましたが、学院内の猛者たちもわらわらと出てくる予定です。

騎士物語 第九話 ~選挙戦~ 第一章 会長の下準備

校外実習を終えて先生に報告をしに行ったロイド。その帰り、見知らぬ女子生徒に声をかけられて誰もいない教室に連れてこられ―― そして報告に行ったロイドを待つエリルたちの下へ、生徒会長であるデルフがやって来る。 ついに始まる選挙戦に向けてデルフが語ったのは、『ビックリ箱騎士団』の現状についてで――

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