あの子がしあわせならそれでいいってそんなの嘘
めんどうなことをおしつけてくる、あの子はそういう子ではなくって、でも、ときどき、なんだかうっとおしいなあと思う日は、わたしが少しだけ、ゆがんでいる日。
風のつよい夜だった。
高速道路を走る、車を運転するのは、しろくまで、わたしは助手席に乗っていて、しろくまは、歯科医師をしているのだった。わたしたちは町を抜け出して、どこか遠くへ行きたかったのだ。温泉があるところがいいね。景色のきれいなところもいいな。外国とかどう。もしくは、いっそ、宇宙とか。しろくまとわたしは、そんなことを話しながら、しろくまはホットコーヒーを、わたしはタピオカミルクティーをのんでいて、そういえばタピオカミルクティーとかはじめてのんだわ、と思いながら、でも、べつに、まいにちのむほどではないかも、とも思っていた。風のつよい夜は、わずかに開けた窓から聞こえる、びゅおおおおんという音が、なんだかぶきみだった。鳴き声みたいで。車のスピードがぐんぐん上がってゆくにつれて、鳴き声もおおきくなって、しろくまが、カーステレオのボリュームをひねった。しらない女のひとの歌声が、車のなかをみたしてゆき、わたしは、あの子が、どうせわたしがいなくっても生きていけるという事実を、とつぜん、ふいに、突きつけられた気分になって、なんだか泣きたくなった。しろくまは、こわいくらいにやさしくて、きっと、えっちも、おそろしいくらいにやさしいような気がする。高速道路の、オレンジ色の街灯が、線を引きながら流れてゆくね。星がみえないのが、ちょっとさびしい。
あの子がしあわせならそれでいいってそんなの嘘