闇落ち

闇落ち

 僕は寝相が悪い、悪過ぎる。
 実家暮らしの現在、
自室のベッドで寝ているのだが、ある日転げ落ちた。

 床に就いて数時間経ち、明け方近くなった頃、
築40年の木造家屋に響く大きな音で目が覚めた。
「すっげえ音したな、なんだ?」
 確認のため身を起こそうとしたところ、なぜか体が痛む。
 マットレスに横たわっているはずが、その割にはクッション性が乏しい。
背中に伝わってくるのは、床に寝転がっているかのような感触。

 夜明け前、消灯された部屋の中は真っ暗。
加えて寝ぼけ眼、頭はボーっとしている。
 夢うつつの中、違和感の続く気持ち悪さ。
 原因を早く知りたいがまずは焦れずに、
目が暗闇に慣れるまでしばらく待った。
 そして判明する真実。
 僕はカーペットの上にいた。
 地鳴りのような轟音、その発信源は自分。

 僕の使っているベッドには柵がない。
片側に申し訳程度、大きめの手すりが付いているのみ。
 一方は押入れのふすまに接しているが、
反対側は端までくれば大人の体は支えきれない、
床へズドンと落っこちてしまう。
 しかし、いくら寝相が悪いとはいえ、
ゴロゴロ寝返りを繰り返し落っこちるほどドジでなしと、
特に転落防止策を施すこともなく眠ってきた。
 そんな甘い観測的希望は見事打ち砕かれた。

 幸い大きな怪我なく軽い打ち身で済んだが以来、
柵代わりに厚く丸めた毛布を置くようになった。
 以降、落ちることなく眠れている。

 9年間住んだ東京では引っ越しせず、
同じアパートの2階に住み続けた。
 寝床は屋根裏を有効活用した、
天井が低く息苦しいロフトの万年床。
 端に簡単な柵が付いてはいたが、
勢いよく寝転んだら突き破れそうな頼りなさ。
 ロフトと階下を繋ぐのは急角度の梯子のみ。
 床はあっても宙に浮いている、奇妙な感覚。
 そんな状況下で本能が危険を察知したのか、
寝ながらロフトから落ちかけるような、
危険な目に遭うことは一度もなかった。

 幼少期は両親と妹の4人、
横並びに布団を敷き眠っていた。
 小学校も高学年に入ると、
子供部屋の二段ベッドに寝るようになった。
 僕が上、妹が下。木製の立派な柵付き。
 兄妹別の一人部屋となってからは、
二段ベッドが分けられる仕様だったため、
引き続き同じ寝床を使用した。

 今僕が寝ているベッドは、元々両親が使っていた。
 車輪付きで独立した製品なのだが、
くっつけることでダブルベッドになる。
 新しいベッドを買った際、1台僕が譲り受けた。
 これは転落後に聞いた話なのだが、
母もこのベッドから転げ落ちたそうだ。
 親子共々、考えが甘い。
 
 現在両親が使用中のベッドも柵なし。
 柵は昇降の妨げ、そう考えているらしい。
寝転げたにもかかわらず。
 とはいえ僕が転落防止のため、
丸めた毛布を置いているのは両親の策を真似たもの。
 とにかく落ちなけりゃいいのだ。

 ふと思い出した、似たケースがあったのを。
 小学5年の時、泊りがけの野外学習で、
男女別に班ごとテントを張り寝袋で眠った。
 朝目覚めると、背中が痛い。
 よく見れば僕は土台の下、砂利の上にいた。
寝返りを繰り返すうちに落ちてしまったらしい。
 この件は後々、事あるごとに同級生にいじられた。

闇落ち

闇落ち

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-03-07

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