大きな毒蜘蛛

毒蜘蛛、吐く糸から絡まってく、くるくる足に巻き付いて、手を後ろにのけ反れば、引っ張られて、腰やお尻が擦りむけて、手を強く抑えれば、さらに強く引っ張られて、岩の絶崖に強くしがみつくも落ちていくような、強い痛み、「母さん、助けて」足の向こうから聞こえる声、ベタベタと飛んでくる透き通った粘着液、ゴホゴホッ、口に入ればぬるく、気持ち悪い質感、すると、10メートルも先にもう一つ大きな毒蜘蛛、この毒蜘蛛よりも一回り大きい毒蜘蛛、ただえさえ、私の8倍はあろうと思われるのに、その更に2倍の大きさはある毒蜘蛛が見える、「母さん」またこの甲高い声、声の主が私の足を引っ張る毒蜘蛛だと気付いた時、この蜘蛛は何を逃げているのだろうか?そう考え、ともかく母親の元へ連れ去るのだけはやめてくれと願った。バタバタと真上から降ってくる粘着液に埋もれながら、やっと動きが止まったと思ったが、安堵する事などできるはずがなく、大きな毒蜘蛛が、小さな毒蜘蛛に何やら寄り添っている。「何をされたんだい?」とにかく粘着液をとろうと、必死に振り払っていると、さっきとは比べものにならないくらい大きな粘着液が頭に降ってきた。どうやら、蜘蛛の口から落ちてきているらしい。凄まじい大きさだ。構わず、このままだと、何だか分からないが、何かを私のせいにされそうなので、急いでこの絡まった白い糸を解いて草むらに隠れようと思う。けれど、ペタペタと強い粘着力で張り付いた白い糸は、どうもこうも取れそうにない。そこでこの透明のベタベタした唾液であろう液体を塗りつけてみたところ、あら不思議なことに、いとも簡単に白い糸が取れたのである。つるんつるん、滑りながら必死に土の地面を蹴って、背丈の8倍はあろう草むらに四つん這いの格好のまま隠れ込んだ。「ここならそうそうバレることはない...」手足、背中お尻まで擦りむけて、これ以上は歩けそうに無く、毒蜘蛛の様子を伺いながら膝をついていると、何やら糸の先の、いなくなった私を見て大いに喜んでいるようだった。必死に考えてみたところ、昼間、森に散歩に行き、そこに真っ白なフカフカの揺れるハンモックがあると思い、周りに人の気配が無かったから、ついこっそり寛ごうと足を入れて、するとその瞬間、「ギャッ」と大きな息を吐く音と共に、どこからとも無く声が聞こえてきて、気づいたら、さっきの状態になっていたと言う訳だ。なる程、つまり、悪いのは私ということで、フカフカのハンモックだと思ったものは、蜘蛛の垂れ流しになっていただらしない白い糸で、ぐっすりと眠っているところを私が邪魔してしまったと、見慣れない生き物に驚いた蜘蛛は、飛び上がって母親に助けを求めに行ったと、私が白い糸に引っかかって引きずられて付いていくしかないところを、わたしがわざと脅かそうとしていると思い込んで、なるほど。そうに違いない。なんてタイミングが悪かったんだろう。いや、もう少し蜘蛛が起きるタイミングが遅かったら、私は身体中巻きつかれて、逃げ出すことなどできず、今頃、餌だと気付いた母蜘蛛の昼ごはんになっていただろう。そう考えると、あの子蜘蛛は、まだ産まれたばかりの世間知らずだったんだろう。さらにそう考えると、私はなんて運がいいんだ。次からは、フワフワの白いハンモックがあれば、上を見上げることにしよう。にしても、毒蜘蛛は恐ろしいからな。なんていったって、あの鋭い牙で一刺しでもされたら、身体中、力が抜けていって、次第に少しずつ、原型が崩れていって、こんな擦り傷だけじゃ済まないぞ。そんなこんなで、考えていると、すっかり日が暮れて、その間ずっと毒蜘蛛の親子の様子を見ていたけれど、親蜘蛛の側を、どすんどすん、元気に走り回って、「あぁ、そんなに離れたらまた危ないぞ」なんてちょっと親心が芽生えたりして、そうこうしているうちに、親子蜘蛛は、ぐっすり眠りについたようで。ただでさえ巨大なのに、いくつも垂れ落ちる粘着液を見て、なんて恐ろしい唾液なんだと。こんなに大きいと、ああも唾液がでるものかと、たまったもんじゃない。こちらもこれからは、小さな生き物を相手にする時は気を使わなきゃいけないな、と。そうこう考えているうちに、すっかり私自身も眠くなって、そのまま仰向けになった。あれ、そう言えば背中一面がすっかり痛まないな。不思議に思い、背中を撫でてみると、そこにはべっとりと毒蜘蛛の唾液が纏わりついていて、「あれ、もしかして、傷を治す効果があるなんて」そんな癒しの唾液だったなんて、なんだか面白くて、私はそのまま安心してぐっすり眠りについた。

大きな毒蜘蛛

大きな毒蜘蛛

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-02-21

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