暇する栞のツイードジャケット。





本を読むのにそれほどは,
耳を使うことなくて。
視線はもう秋雨に,
加わってから降りしきる。
それから軒先を登ったり降りたり。
どれが主役なんだろ?
雨粒はどれも同じに見える。







ツイードジャケットは脱いだから,
軽々しくお茶をする。
湯気は眼鏡を曇らせる困ったこと。
美味しく頂く。
人に合わせて自動に開くドアーから
外の音が唐突に入ってくれば,
訪問者は大体居る。
皆どこかホッとしてるのは,
濡れることない店内だからだ。
染み込むもののない床を進めば
安堵と披露の混合ミックス。
注文するのは苦味と甘み。
何一つ皺のない千円札の
やり取りを見守るキャラクターは,
レジを背に微笑みを絶やさない。
たまに500円玉も貰うから
中々油断ならないヤツです。







序盤の物語は捲りやすい。
栞が暇そう。
クイズでもやってなさい。
空欄3つが空いてるから。
考えた答えなら,
悪いものにならないよ。







冷房は切られてる。
そんな季節だし,
もう少しゆっくりしよ。
急いては事を仕損じる。
忙しそうなタクシーだってゆっくり停車した。
窓辺で見たホントのことだよ。







携帯電話より話す人は
笑い声が上手い。
腹の底って言えばそう。
心のままって感じもする。
会話のアクセントを続けて,
リズムもある。
なんとなく聞く話題はスライドの嵐で
あれも良いしこれも良い,
急ぎ足のウインドウショッピングというところ。
楽しさが後からついて来る感じ。
お決まりが無いから好い。
今を生きてる,
と言ったら大袈裟だけど。
その上手さは
新人が揚げるフライドポテトより
温かみを残してる。







内側から窓を拭き続ける丁寧さ。
靴底も危うくならない木の床たち。
見れば照明は高めの位置にあって
強い光を薄く伸ばして届けてる。
一枚も落ちて来ないけど,
花の形に見えるには気のせいじゃない。
光放つ花。
電気代を気にしてない風の煌煌。
本物の(と上に気遣って声出さず言って),
一輪挿しと目を合わせて飲む。
まごうことなきアメリカン。
香りを無くされないように大事にする,
それは包み紙の心遣い。







予報がお伝えするには,
秋雨は降るように
気温が若干下がる様子。
栞はまだ暇してるけど,
考えてもいるみたい。







本の中で帽子屋の倅さんが
小学校を上がったばかりで
大事な上客の
背広に似合う大切な帽子を
届けに走ってる。
間に合うかは駅を出る汽車次第で,
彼の走力にかかっている。
数行前から気配を放ってる
通行人にぶつかりそうな未来は
果たして実現してしまった。
帽子の様子が気になった。
近くには書かれたそうにないけど
そのうち出て来るだろう。
作者はそんな人柄だと思うから。
だから帽子屋の倅が,
立ち上がるまで待てる。
辛抱なんて造作も無い。
湯気で眼鏡も曇ったばかり。
それは綺麗に晴れるのだから。







読点の縁に足掛けて。






限られた視線を秋雨に降らす。
軒下から零れ落ちる。
カラフルなレインコートの人柄に,
気を許して着地する。
蒸発してまた帰るまで,
沢山跳ねる。
音立てる。







街路樹に隠されたものから
大事な灯りを引っ張り出して
ぼんやりと雨の姿を映す通り。
所々の信号機。
時々の止み模様に
雨脚は弱くなる。
頃合いを迎えたし,
栞は暇してる。







帽子屋の倅が決意をしたとこで
栞を挟んでから残りの時間を一気に飲み干す。
甘めが強いのはティースプーンに気を使って
あまり目を回さなかったのが原因だ。
謎は溶けた。
給仕さんのご厚意に預かって特に片付けず
席を立つ。
それからジャケットを羽織る。
それはツイードのものだ。
毛羽だつのがご愛嬌。







傘立てに目をやったのは
そこに人の数を見て取ろうとしたからだ。
1個だけ空席があったから,
その1人はいないのだと知った。
秋雨もその人を知らないだろう。
これから来る,
その人を栞は考えるかもしれない。
栞は暇しやすいし,
よく物事を考えるから。







小降りでも秋雨は
容赦無く降り落ちて来る。
顔を上にあげれば濡れるからしない。
眼鏡は雨にも弱いのだ。
視界良好。
これに勝るものは,
外走って帰ろうとする今の自分には無い。







少し重い,
ツイードジャケットにバランスを任せ
駆け抜ける。
首元に入った秋雨はこの際,
連れて帰るとしよう。







部屋には甘いものも苦いものもある。
退屈はそうしない。
だから大丈夫で,
心配はない。

暇する栞のツイードジャケット。

暇する栞のツイードジャケット。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-02

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