星とチョコレートケーキ
チョコレートケーキが、やさしい甘さだった日の、夜のあいだに降り積もった星の、埋葬、おごそかに。
黒いネクタイを、きゅ、としめて、きみが、星を、星塚に埋めるあいだに、ぼくは、肺に咲いた、花の、こう、もぞもぞとした感覚に、シャツの上から指をおいて、確かめる。皮膚の、肉の、神経、血管の、骨の奥にある、花のかたちを。途方もない、あらゆる生命の呼吸が、朝の空気をみたすとき、森はささやき、海は鳴いて、月は眠る。ていねいに星をひろう、きみが、ときどき、白いハンカチで、星についた土を、拭う。そして、また、土に還す。
二十四時に食べたチョコレートケーキは、もう、ぼくの胃のなかには、のこっていなくて、肺に咲いた花は、日に日に、その面積を拡げている気がする。もしかしたら、蔓の一本でも、肋骨に巻きついている可能性も、あり、けれど、ふしぎと、痛みはない。
ぼくは、きみが、誰よりも星を想い、慈しみ、空から無抵抗で降ってきて、燃え尽きた彼らを、まるで、じぶんの恋人のように扱う姿が、好きで、嫌いだった。そんな、思考も、感情もない、きみを愛しむ手も、くちびるも、言葉も持ち合わせていない、星よりも、ぼくの方が、きみのこと、たいせつにできるのに、と思いながら、星塚の前に跪いて、ハンカチできれいに汚れを拭った星、ひとつひとつをそっと、祈るように抱きしめる、きみの背中を、ぼくは見つめていることしかできない。午前六時。
星とチョコレートケーキ