天使との、約束

気にしなきゃあ、良かった。母さんと父さんが離婚してることなんて。気にしなきゃあ、良かった。兄がギャンブルばっかりのことなんて。気にしなきゃあ、良かった。妹が煙草を吸ってることなんて。
気にしてきてないよ、今までずっと。それなのに、ある時突然、天使がやってきて、「あなたは生まれ変わりますか?」って聞いてきたから、考えちゃったんだ。「どちらでも、選べますよ。でも、一回きり。」だから、考えちゃったんだ。
あの時、空を飛ぼうとしたこと。だいすきなコリーを手放しちゃったこと。煙草の吸い殻をいつも、コンクリートに押し付けてたこと。
そういえば、全部が全部親のせいな気もするけど、でもそんなことないって気づいちゃってから、どうしようもなくなっちゃったなって。
ぽんって、押し出されちゃって、今までは誰かのレールにいたのに、これからは自由ですよ、っていきなり。楽でいいよなあ、親って。
「天使の輪っかって光るの?」
「うーん、見る人次第かなあ。君さあ、捻くれててさなんか大人げないよ。」
中ぐらいの羽をふわふわ揺らしながら、こめかみを叩くと急にぶっきらぼうに、
「そんなさあ、親がどうとかさ、レールとかさ、そんなまともな人生今まで生きてきてないでしょ?」
私は唖然とし、ソファに深く腰を降ろした。「そうなのかな」
「だいたいあんたさあ、ずっと煙草吸ってたんでしょ?それで自由が無いとか笑えるよねえ。今でもさあ、プカプカ...」
「とっくにやめたよ、20歳の時に」
「嘘ばっかり。だって今あんた、」
「20歳」
「...」
天使は急ににっこり優しい笑みを見せると、さっきより少しだけ高く宙に浮かび上がった。
「もう人生逆転しててさあ、生まれ変わるのに丁度いいと思うんだけどね」
「うん、じゃあそうしよっかな。」結構、あっさりだった。色々思い返したけど、まあ別にいいかなって思った。
それよりもどうでも良かったのかもしれない。ただ、ここからいなくなれるって言うから。
天使はさっきよりも強く微笑むと、ステッキを大きく振りかざしてキラキラの粉をわたしにかけた。
左手がだんだん薄くなっていって、あ、わたし生まれ変わるんだなーって。
全部が消えちゃう前に、天使がそっと耳打ちした。「もういっかい、お母さんのお腹に」


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2023/03/20

元気な女の子が産まれて、その女の子のなまえは、「てんな」、産まれてきた時に天使みたいに丸い輪っかが頭についてたから。皆、光った頭をみて、「天使の輪っかみたい」そう言った。
よちよち歩きの時は、まだ天使が見えた。「おじさん、天使。おじさん、天使」私がそう繰り返すから皆笑ってた。
「てんなには、おじさんの天使が見えるのかな?」

石につまづいて、転びそうになったとき、どこからともなく、ふわふわの、おじさん天使が飛んできて私にこう言った。
「天使が助けたことを忘れるんじゃないよ」そう言っておでこにkissして石と一緒に消えていった。

トイレでお漏らししそうになった時、またどこからともなくおじさん天使がやってきて、私の股間を一生懸命押さえながら、おぼつかない足で便器に座るのを助けてくれた。

なんでもはっきり理解して、喋れるようになったころ、おじさん天使はだんだんと薄くなっていった。

ある日、勝手にママのエプロンで遊んだから、怒られて、取手のついた木の板の側で泣いてたら、天使おじさんがやってきて「秘密のことを教えてあげる。ママはね、もうすぐで死んじゃうんだ。先に死んだパパがね、ママのことを頼むってお願いしてきたんだよ。」天使おじさんの目から雨が降ってきた。「でもそれは叶わないから、代わりに君の願いを叶えたんだ。君に、一度だけ人生をやり直せるチャンスを与えたんだよ。そうしたら、君は見事に生まれ変わって、そしてまたパパとママの子供になったんだ。分かるよな?」私は小さく頷いた、
「お兄ちゃんと、お姉ちゃん、もう少ししたら嫌な目にあう。でも君が、きたからもう大丈夫なんだ。」「守るんだよ、約束。」
貰い泣きして、わんわん泣くと、「どうしたの?」ってママが近づいてくる音がした。「もうこれで、最後だよ」天使おじさんはおでこにkissして、すうって消えていった。本当に、最後みたいに消えていった。
「ママ、ママにみんなのことはてんなが守るからね」
ママがびっくりして抱きしめてくるから、てんなも思いっきり握り返した。

天使との、約束

天使との、約束

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-02-13

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