“レディ”が言った。

レディが言った。
「お米、ほっぺについてるよ」
僕はほっぺについた米粒をとりながら、レディに尋ねた。
「レディ、どうしてそんな目で僕を見るんだい」
レディはうんともすんとも言わず、僕の顔をじっと見つめた。僕はテレビのチャンネルを変えながら、「レディ、何か見たいものはあるかい」、と聞いた。レディは時々首を傾げながら、物欲しそうに鮭のムニエルを見つめた。
「レディ、もう少し待ってよ」
僕は悲しそうにするレディを片目に収めながら丁度よく面白そうな番組を見つけると手を降ろした。
艶々のニスの塗られた木製の箸で鮭のムニエルをつまむと、レディの口元へ持っていった。レディは嬉しそうに食いついたが、また物欲しそうに皿の上のキラキラ光るムニエルを見つめていた。
僕は意地悪をしたくなって、
「レディ、僕とどっちが早く食べれるか勝負だ」
そう言って鮭の一カケラをつまむと、残りをレディの前へ差し出した。
「よーい、どん!」
勢いよく、皿の上のムニエルに食らいつくレディ。
「もう、食べ終わった!」
口を開けて、大袈裟に開いて見せつけてみる。
僅かな差で食べ終えたレディは、ペロリと自分の鼻を舐め物欲しげに僕を見る。
「もう、無いよレディ」
ふぅっと、前を向くと急に魂が抜けたように力が入らなくなった。
「なあレディ、こんな僕はどうだい?」
いつものように、テレビ横の額縁に入った彼女が映る。僕はゆっくりと口を開いた。
「なあレディ、こんな僕と明日もいてくれるかい?」
僕の薬指をペロンと舐めたレディは、尻尾をパタパタと静かに揺らした。

“レディ”が言った。

“レディ”が言った。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-02-08

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