あなたの世界で眠りたい
かいがらの、あの、表面をなでたときの、ざらっとした感じを、ときどき、思い出しながら、四角い窓から、海をみている。交わることで、あのひとが、わたしの永遠になるとは、きまっていなくて、わたしの後方で、絵を描いている、あのひとの、人生の一部に介入することには、それでも、満足できずに、いる。一部、ではなく、全部、でありたいし、交わる、というよりは、混ざりたい、のであるが、わたしは、あのひとに、それを告げられないで、ただ、あのひとのそばに、いる。そばにいるだけのことを、あのひとは、でも、ゆるしてくれるのだ。部屋の白い壁は、あのひとが塗った。四角い窓のガラスは、わたしが毎朝みがいている。ていねいにみがくよう、あのひとは言って、でも、そのほかのことはなにもしなくていいと言う。朝食はいつもトーストで、そのトーストすらも、やらなくていいというのは、なんだかな、と思うときもある。食パンを、トースターに、セットするだけなのに。なんだかな、というのは、なにもやらせてもらえない、かなしみと、むなしさと、いかりに、なにもやらなくてもいいという気楽さ、が、すこしずつ存在している、ふくざつなものだ。あのひとは、毎日、絵を描いていて、絵は、空想の世界で、この家からのぞめる海を、空を、風景を無視して、あのひとは、あのひとにしかみえない世界を、描いている。生きている。わたし、というにんげんが、あのひとの、世界の、住人のひとりであることを、ひとりでしかないことを、期待しているけれど、ほんとうのところは、わからない。(あなたにとって、わたし、とは?)
あなたの世界で眠りたい