七百年の共存

 おかあさん、というひとたちのあつまりのなかで、肉感のない、ゆりかごみたいなおかあさんだけが、唯一、穏やかに眠れる場所だった。
 星をかぞえる勉強をして、それだけでは世の中、渡れないっていう先生の、人差し指と、中指に挟まれた煙草が、闇のなかで、あやしく燃える。好きになってはいけないひとを好きになったら、神さまに、見捨てられるような世界ではないけれど、好きになってはいけないひとを好きにならないような仕様に、してほしかったと思う。神さまならば。
 朝でも、昼でも、夜でも、深い紫色の空で、空間には全体的に少しだけ、歪みが生じており、動物園、という場所が無法地帯となりて、早七百年が経つというのだから、そう、ライオンや、シマウマと、恋におちるにんげんがいたって、おかしくはなくって、半獣のひとが増えてきたのは、そういうのもあると、先生が教えてくれた。半獣と、半獣が、交わったら、生まれる子どもは、半獣なのか、半々獣なのか、もしくは、獣の血が色濃くでて、つまりは、たんなる獣、となるのかは、実際に交わってみないとわからないところらしく、かつてはにんげんに飼われる側だった動物たちが反対に、にんげんを飼い慣らすようになったのも、神さまの戯れか、と語るのは、やはり先生なのだった。森のなかに棲んでいるひとたちが、ときどき、真夜中の町の、二十四時間営業のハンバーガーショップで、フライドポテトを黙々と食ってる。

七百年の共存

七百年の共存

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-02-05

CC BY-NC-ND
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