ツクヨミ奇譚

祐喜代


古の昔、太陽に照らされし昼の世界に田を耕すアマテラス民族と、

同じく太陽に照らされし昼の世界に狩りをするスサノオ民族ありき。

アマテラス民族は肥沃なる土地を見つけて、そこに暮らせり。

スサノオ民族は狩りに適せし山海を移動して暮らせり。

やがて二つの民族とも子孫増え、

アマテラス民族は肥沃なる土地に大いなる国を作り、

スサノオ民族は山海の各地に小さき国をいくつも作りて、かたみにゐ分けたりき。

されど昼の世界に天の災い続きすと、

アマテラス民族もスサノオ民族も食ひ物不足して、

たびたび対立し合はば、食ひ物や土地奪ひ合ひせり。

太陽に照らされし昼の世界に活動するこの二つの民族とは別に、

月に照らされし夜の世界にツクヨミ民族ありき。

ツクヨミ民族は謎の多き民族なりて、アマテラス民族とスサノオ民族の活動せる昼の世界には、地下に潜みてジッとせり。

ツクヨミ民族は、アマテラス民族とスサノオ民族の寝静まりし夜の世界になると地下より出できて、

アマテラス民族とスサノオ民族の食ひ物盗みて暮らせり。

その習性は、夜行性の梟に覚えて、

ツクヨミ民族はみな眼が大きく、光に敏感なれば、

夜になると眠くなる習性をたえて作らざりき。

そのかはり暗闇にもよく物が見ゆれば、アマテラス民族とスサノオ民族のある国へ易く忍び込むべかりき。

耳も梟のごとく敏感なれば、

アマテラス民族とスサノオ民族におどろかるとも、

敵のある音の位置と距離を立体的に把握すべければ、

滅多につかまることはあらざりき。

ツクヨミ民族は地下と夜の世界にしか活動せられねば、

アマテラス民族とスサノオ民族に捕まりぬと、

その梟のごとき習性がために、昼の世界にゆゆしきなやみを味はひき。

夜の世界に活動するツクヨミ民族や梟にとりて、

見ず知らずの者どもに触れらるることは多大なる緊張になりき。

かくて昼の世界には光や音の刺激こはく、

それがゆゑに恐慌になり、クタクタにこうじて死にぬる者もありき。

ツクヨミ民族の故郷は月なれば、夜を照らす月の周期ならずと活動せられざりき。

かくて月なる同族どもと絶えず交信して、

それを霊感として受け取れり。

ツクヨミ民族はその霊感使ひて絵や管弦などを作り、

それをアマテラス民族とスサノオ民族より盗みし食ひ物のかはりに、二つの民族の国に置きゆきき。

それよりまたとばかり月日経ると、

昼に活動するアマテラス民族とスサノオ民族が対立の果てに婚姻結び合ふやうになり、

その結果、二つの民族の融合せるアマスサ王国せられき。

アマスサ王国はその覇権を夜の世界にも広げ、力合はせてツクヨミ民族を捕まへき。

アマスサ王国に捕まりしツクヨミ民族もまた、

対立の果てにアマスサ王国と婚姻結び合ふやうになり、

その結果ツクヨミ民族は、アマスサ王国と同じ昼の世界に生く事を強要されき。

されど夜の習性を持つツクヨミ民族は、昼の世界にならふべからず、

その大勢が病にかかりて死ににけり。

おくりし者どもも、その子孫のおほかたは昼の世界には憂き思ひして生けり。

今の世の“発達障害”といふ病は、さる悲劇に見舞はれしツクヨミ民族の持つ習性の名残なり。

ツクヨミ奇譚

ツクヨミ奇譚

古事記で馴染み薄い「月読」の存在を題材に想像を膨らませたお伽話です。

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