試験管の底でおやすみ

 よあけのころ、あなたは、海にかえる。
 めをあけたとき、となりにいたはずのあなたがいないのは、心臓にわるくて、さいしょは、どきり、として、それから、また、めをとじることにした。ふたたび、めをさましたとき、は、もう、あなたのぬくもりは、ベッドにも、部屋にも、のこっていなくて、それで、ようやく、ぼくは覚醒する。にんげん、だれしも、いやなものはみたくないと思う。ついさっきまで、ぼくのとなりにねむっていたあなたが、いない、という事実から、ぼくは、刹那、めをそむけるのである。かなしい。さびしい。くるしい。あなたが好きで、好きで、好きすぎて、つらい。こういう感情で成り立っている、ぼくという、にんげん。
 試験管のなかでねむれれば、いいのに。
 丸い底に、からだを折り曲げて、すこしきゅうくつだけれど、あなたとふたりで、そこでねむれたら、あなたは、海に、かえらないかもしれない。否、かえれないかもしれない。ぼくらは、一生、試験管からでられないサイズのからだになって、それで、ふたりで、息をしていければ、でも、べつに、それならば、試験管でなくてもいいのだけれど、なんとなく、ビーカーだと、たよりない気がするんだ。
 海にかえったあなたは、さかなたちとごはんをたべて、あそぶ。
 ぼくは学校に行って、アルバイトをして、家に帰ってきて、ねむる。
 あなたは、まよなかに、きまぐれにやってきて、ぼくのとなりで、ねむる。まじわらないで、ねむる。ふれるか、ふれないかの距離感をたもったまま、ねむる。
 透明な、ガラスはつめたいけれど、きっと、でも、あなたと折り重なるようにはいったら、おそらく、あたたかくて、やわらかいでしょう。えいえんにでられない、おとしあなにおちてしまったみたいに、絶望のなかで、あなたにはぼくしかいなくて、ぼくにはあなたしかいない、という、強烈な依存症にさいなまれて、それで、

試験管の底でおやすみ

試験管の底でおやすみ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-01-25

CC BY-NC-ND
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