ひまわりの咲く美術室

 やわらかいね、ねことか、肉とか、焼きたてのパンの、しろいところとか。
 ときどき、想うこととして、しろくまを、なでたいということと、花の蜜の甘さは角砂糖にすると何個分か、ということ、で、ぼくのくびをきれいだと言った、となりのクラスの女の子が、まよなかのダンスホールで、おどっているといううわさは、でも、わりと、どうでもいい部類にはいる気がする。ぼくのなかで。
 せんせいがさぁ、もっと、どうにもこうにもたよりないとか、はてしなくダサい、とかだったらよかったのに。
 美術室に、ひまわりが咲いて、夏、とか、いまは、冬、なんですよと、ぼくは思いながら、美術室の、うしろの、美術部のひとたちの画材道具がしまってあるロッカーあたりから、日に日に増えてゆく、ひまわりの花に、ふれる。ときおり、花びらをもいで、きまぐれに、キスをする。手折らないように、そっと、ていねいに、恋人を抱くように、と教えてくれたのは、せんせいだったね。ぼくらの町は、海が、そろそろと、町に侵入して、浸食して、次第に小さくなっている。たとえば、せんせいに、絵のモデルになってほしいと言われたら、きっと、ぼくは、よろこんでするだろうし、もし、きらいだからいなくなってほしい、と言われても、ぼくは、おそらく、いなくなるのだろうと思う。まよなかのダンスホール、という響きは、いつきいても、なんだかおかしくって、それで、すこしだけ、せつないよ。

ひまわりの咲く美術室

ひまわりの咲く美術室

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-01-22

CC BY-NC-ND
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