きみ、透明
まとわりつくような寒さの、そう、夏の、じわりとはいまわる熱気とは異なる、はだをちくちく刺す冷たい空気が、まとわりつく真夜中の、部屋の窓から見上げる月の丸さに、感動してみたり、している。
いつから、ぼくの片割れは、うすくなったの。
どんどんと、からだが透けて、透明人間になってゆくのを、ぼくは、気づいていたくせに、気づいていないふりをしていた。きみの姿も、声も、完全なる透明になって、はじめて、ぼくは、なにかできたのではないかと、後悔したよ。春になったら一緒に花見をしたいねなんて、そんな約束はしていなかったけれど、でも、きみと、桜を見たかったとも思う。夏の海も、秋の紅葉も、冬の雪も、きみと見て、それで、季節があとひとつおとずれたら、きみの、はじめての誕生日を祝ってやろうと、ひそかに企てていたのに。プレゼント、バースデーケーキ、きみの好きなえびピラフと、コーンスープで。ぼくと、おなじ顔、おなじ背格好の、ときどき、金平糖を吐きだす、きみが、さいしょはあんなに憎かったのに、いまは、いないことが、こんなにも苦しくて、日に日に、薄色になってゆく、きみを、どうにもしてやれなかった自分を、すこしばかり憎んでいる。
きみが、透明になっても、月は丸くて、水槽のアロワナは、優雅に泳いでいる。
時間は、あっというまに過ぎてゆき、季節は、順当に巡り、学校の授業は、滞りなく進んで、世界は、きみなんてはじめからいなかったみたいに、まわっている。
きみ、透明