お人形さん

ちひろ

きれいな涙

落ちた頬はふわふわとしたクッションに
綿の詰まった布の上に落ちてって、

はじめて流すようなきれいな涙。

少しだけ、吸い込んで少なくなった涙はぽたんっと、ひらひらのお腹の上へ。

ジグザグのオーガンジー生地の上では、涙はうまく弾まなくってそこに留まったまま、しばらくして消えてった。

きれいな涙に、わたしはうっとり見惚れるも一緒に悲しむこともしないで、ただただきれいだと思った。

わたしは、泣かないから。わたしが泣かないのは、誰かになにかひどいことを言われても、その人をだいきらいになるだけだからだ。

このお人形さんが泣いたのは、わたしがあなたを「汚い、あなたなんか好きじゃない」と言ったからなんだけど。

このお人形さんが今泣いた理由を、一生懸命考えてる。

たぶん、「つらくて、ショックで、たぶん、わたしのことがだいすきで。」
だから泣いたんだと思う。

そう納得しても、わたしはそうならないからわたしは違うけどと思った。わたしはたぶん、だいすきな人に「だいきらい」と言われても、その人のために泣いたりしないし、たぶんその人のことを、それ以上にきらいになってやると思うとおもう。

お人形さんが、わたしのために泣いたのは、それはとっても儚くて脆くてとっても危険なことだと思った。こんな弱音を見せるなんて、でもつまりそれはとっても暖かくて、なんだかうまく言えないけれど、それだけ心に、満ちたものがあって、誰かに隙間を見せれちゃうような、それが何かは分からないけれどもう、わたしが持っていないような、それと産まれた時からある真っさらなもののような、そんなものが今もお人形さんの中にあるのだと思った。

そっと持ち上げる。

お人形さんはふわっと、宙に浮いて傾げた首で軽く髪を揺らした。

少し前の、わたしにそっくりのお人形さん。

お人形さん

お人形さん

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
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