南天、カンパーニュ、じゃがいものポタージュ

 閉鎖された街のどこに、きみはいるのでしょう。機械仕掛けの、ロボットたちが暮らす街で、きみは、おそらく、だいすきなカンパーニュを食べて、砂糖もミルクも淹れないコーヒーを飲み、むずかしい本を読んでは、ロボットたちの内部構造を研究し、時には修理し、もしかしたら、高い壁に囲まれた街のなかから、ぽっかりと開いた空を眺めているのかも、しれません。夕陽は赤いですか。雨は冷たく、雪は降り積もるのか。なにせ、手紙、というものも届かないところですから、きみと、連絡を取る手段がないことを、歯痒く思います。生きていればいい、と祈るのは、いやなのです。生きているのは、当然のことで、怪我や病気をせずに元気でいてほしいと、願うのです。星はみえるのか、ぼくらの町から眺める、きみのいる街は、夜、眠ることなど知らないのではと思うほど、びかびかと明るく輝いています。
 庭の南天が、赤い実をつけました。きみは、可愛らしいと言いましたね。ちいさい宝石みたいだと呟いたきみは、世界のなによりも可愛らしい生きものだと感じました。ぼくは相変わらず、湖にやってくる白鳥の観察を日課としていますが、さいきんはその数も減少しています。かなしいです。町は、よりよい町になるために、本来の町の姿を失いつつある。森は切り倒され、山は削られ、川は埋め立てられ、いままでなかった真新しい建物が増えてゆく。林立するコンクリートの群れに、心なしか空気も変わっているような気がします。粉っぽいような、みえないなにかがいりまじったような、空気。きみが住む街には緑がないとききます。ぼくは、植物に疎くても、美しい花を前にはっきり美しいと言えるきみが、好きなので、きみにはどうか、自然に触れらえる環境で生活をしていてもらいたいところです。
 そういえば、例の、アロワナがいる喫茶店の、おなじ顔をしたふたりの少年が、つい先日、ひとりになりました。さびしくなったので、じゃがいものポタージュをおかわりした。マスターも、マスターの奥さんも、どこかさびしそうだったけれど、少年は、ひとりになって清々したのか、てきぱきと店の手伝いをしていたよ。せつなかった。

南天、カンパーニュ、じゃがいものポタージュ

南天、カンパーニュ、じゃがいものポタージュ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-01-13

CC BY-NC-ND
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