雪を待つ
ねこのこどもたちが、あそぶ、庭のかげで、そろそろ雪が降りそうだからと、窓のそとばかりをながめている、せんせいの横顔に、うつる、だれも知らない、海。さざ波が、やすらかなうたを、うたうように、せんせいのこころも、おだやかに揺れているのかもしれない。ぼくは、すこし冷めたコーヒーを飲みながら、きょうという日のことを、一体いつまで、記憶していられるのだろうと考える。せんせいにはふつりあいの、ミントグリーン色のカーテンのすそが、ときどき、わずかに、ふくらんで、それから、ごくちいさな音で流れているテレビの、あたらしい年を迎えて、やや浮かれている感じの番組が、むなしくもつつがなく終わってゆく。
町の図書館でみつけた、鉱石の図鑑を読んで、せんせいが、恋をしていると思われる、あの、サンドイッチ専門店の、ひとのことを、ぼくは、どうにかこうにか、好意的にみれないものかと、おもんばかり、しかし、やはり、せんせいが恋をしているひと、というのは、ぼくにとって、いわゆる、恋敵、でしかないという事実に、感情の、本心の、ぼく自身すらもどうしようもできないところで、かってに生まれて巣食っている、嫉妬、というなまえのものが、一ミリずつ、からだのなかに蔓延しているのが、衝動的に、許せなくなった瞬間に、どうか、ぼくを、半永久的に、こおらせてほしい。
真夜中、高速道路につらなる車のヘッドライトが、光の道を描いて、やさしいひとたちが、トランペットを吹き、ピアニカを弾き、カスタネットを打ち鳴らし、やさしい曲を奏でる。パレード。
雪を待ち望んでいる、せんせいの、長い睫毛に雪の結晶が付着する様を想像して、儚い、という言葉が、とめどなくあふれてゆく。
ぼくらの星に、かなしみは、ほんの一滴あってもいい。
せんせいが好きな、サンドイッチ専門店のひとのつくる、たまごサンドは、たぶん、せかいでいちばん、おいしい。くやしいけれど。
雪を待つ