あきちゃんはおおかみになれる
あきちゃん → 秋森 おだやかで、やさしくて、なんだか甘ったるいひと
ふゆみん → 冬海(ふゆうみ) ほわほわ、ゆるゆる系
月夜の晩に、あきちゃんは、おおかみになった。
ひるまは、ねむくって、ぼくは、アイスクリームをたべながら、きょうは、あきちゃんと、いっぱい夜更かししようと思って、あきちゃんちに行ったら、あきちゃんは、ねむっていて、ひるまから、ならば、ぼくもねむるかって感じで、あきちゃんのとなりで、ねむって、起きたら、いつまにか、そとはまっくらで、月のあかりがさしこんで、あきちゃんは、ぼくのとなりで、おおかみになって、いた。さいしょ、いぬ、かと思ったけれど、なんだか、しゅっ、としているから、おおかみだって、わかった。図鑑の写真でしか、みたことがなかったけれど。
月は、まんまるで、白くって、冬の夜は、とくに、月のひかりが、つよいような気がしていた。
寒さで空気が、澄んでいるから?
さえぎるものはなにひとつなく、宇宙の、月の、かがやきがそのまんま、地球にそそがれているような、感じ。
おおかみのあきちゃんが、いった。
「いつからいたの」
ぼくは、あきちゃんちに、ひるまにやってきたこと、おかあさんが、どうぞどうぞとあげてくれたこと、あきちゃんが、きもちよさそうにねむっているから、ぼくもねむってしまったことを、あきちゃんに告げた。あきちゃんは、いつもの、おだやかで、やさしくて、洋菓子みたいに甘い顔を、していなくって、それは、あきちゃんの、いまの顔が、おおかみ、だからで、でも、声は、ややうわずっているけれど、羽根でそっと、鼓膜を撫でるような声色は、ちゃんと、あきちゃんで、ぼくは、夢をみながら、起きているような感覚に、おちいっていた。月のあかりだけがたよりの、あきちゃんの部屋で、おおかみのあきちゃんは、でも、うつくしかった。ぼくは、すこしばかり、うっとりしていた。あきちゃんは、おおかみ、のせいか、うごきがにんげんのときよりも、ゆったりしていて、にんげんのときには決してない、威圧感、みたいなものが、あった。
「ぼくのこと、こわくないの?」
あきちゃんは、きいた。
ぜんぜん、と、ぼくは答えた。
こわい、よりも、かっこいい、がまさっていたし、あきちゃんは、にんげんのときも、かっこいいのだけれど、おおかみのあきちゃんは、そのときには感じたことのない、色気、みたいなものを、まとっていた。
静かだった。
雪が、降っているときのように、静かだった。
あきちゃんの部屋で、ぼくと、あきちゃんの気配だけが、みちみちていて、あきちゃんからする、けものくささが、でも、不快ではなかった。むしろ、ふだんのあきちゃんとはちがうにおいに、ぼくは、興奮していた。おだやかで、やさしくて、ぼくを、とろけるように甘やかしてくれる、あきちゃんとはちがう、薄皮一枚のしたに、荒々しさがあって、するどいつめを、きばを、ひた隠している、ぺりっと皮がはがれた瞬間、喉笛を噛み、胸を引き裂いて、心臓をあばこうとするのではと想像させる、おおかみのあきちゃんに。
「ふゆみん、悪いけど、この姿になった僕は、自分でも何をするか、わからないんだ。傷つけたら、ごめんね」
あきちゃんはていねいに、いった。
それで、ぼくのみぎかたに、おおかみのあきちゃんは、よりかかった。けものくささが、より一層、つよく感じられた。鼻先が、ぼくの首の皮膚を、かすめた。しめっていた。吐息が、なまあたたかかった。にんげんのときの、あきちゃんの顔や、しぐさなんかを思い出しながら、ぼくは、まどのそとの、月をみた。
白くて、まんまるい月は、白玉に似ていた。
あきちゃんはおおかみになれる