青と海、白い花びらの雪

あおい はる

 青の、永久性。
 わたしが、たとえば、海のものとなっても、だいじょうぶ、きみのことは、忘れないから。

 駅のホームの、ベンチに置かれていた貝殻の、凹凸が、あまりにも滑らかで、ずっと、指で撫でていたいと思った。つやがあり、きれいで、きっと、誰かが大切にしていたものだと想ったとき、すこしだけかなしくなったのは、貝殻が、羨ましかったからだ。自分自身ではない、他人に大切にされるということが、羨ましかった。
 線路に敷き詰められた、白い花が、電車にひかれて、宙に舞い散る。風にのって、雪が降ったみたいに、白い花びらはプラットホームに積もり、ひとびとは、無遠慮に踏みつけてゆく。靴の裏にくっついて、舌打ちをされる。アスファルトにはりついて、駅員さんが困り果てる。線路を埋め尽くすように咲く、白い花は、となり町まで続いている。ひかれても、すぐに花は咲く。電車の最後尾からの景色に、ときどき、なみだを流すひとが、いる。散り散りになって舞う、花びらのしたで、ふたたび花は開く。再生する。根を絶やさない限り、白い花は永遠に、咲きつづける。
 朝も、夜も。
 夏も、冬も。
 各駅列車に、おしつぶされても。
 特急列車に、ひきずられても。
 貝殻を撫でながら、わたしは、白く染まってゆく駅を、ながめてる。乗るはずだった電車は、七分前に出発した。乗らなかったのは、ばかみたいな理由かもしれないけれど、誰のものかもしらない貝殻を、手放したくなかったから。
 ちいさな子どもが、自分のあたまのうえで舞う花びらをつかもうと、ひっしに手をのばしている。片手は、おかあさんにつながれて、あいている方の手に、めいっぱいのちからをこめて。
 そういえば、貝殻のなまえを、わたしはぜんぜん、しらない。
 あさりと、しじみと、ほたてと、かきと、オウムガイと、それから、アンモナイトくらい。
 そのどれにもあてはまらない、この貝殻のなまえを、しりたいような気もするし、べつに、わからなければわからないでもかまわない、という感じがする。
 貝殻の、滑らかな凹凸を指先で、二度、三度、撫でまわしながら、そう思う。
 つぎの電車が、駅のホームにすべりこんできて、白い花がまた、散る。

青と海、白い花びらの雪

青と海、白い花びらの雪

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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CC BY-NC-ND
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