再会

再会

「そろそろシンデレラタイムですので」
 空のグラスに入ったダイスが、カウンター越しに差し出された。
 
 サイコロを転がし出た目に応じて景品がもらえる、不定期開催のお客様感謝ウィーク。
 ちょうど昨日から始まったらしい。
 ちなみに一等は系列店で使える一万円分の料金割引券。
二千円分✕五枚と丸々ではないが有効期限なしと、ここまでお客様本位のクーポンも近頃珍しい。

「お兄さんがいらっしゃるときって、きまってキャンペーンやってるんですよね。
本当偶然なんですけど、不思議と」
 バーテンさんが呟く。
 確かにそう、外したことは一度もない。

「俺さ、六等のマジックグッズっての、前から気になってたんだよね。
サイコロいいからさ、それもらえない?」
 はじめはきょとんとしたバーテンさんが笑顔で頷いた。

 冒頭のシンデレラタイムとは午後十時のこと、童話よりも二時間早いが。
 実家住みの身とはいえ、齢四十にしてこの門限はちと早い。それには相応の理由がありまして……
 
 以前ダイヤを勘違いし、終電を乗り過ごしてしまった。
タクシーを使えばいいものの、それでは飲み代相当かかってしまう。
 そんな我がエゴの犠牲となってもらい、就寝直前だった妹に車で迎えに来てもらったことがあった。
 また、電車に間に合った際にも酔って候,ベロベロの千鳥足であったため、
最寄りの駅で降り損ねかけた。しかも二度も。
 そんな失態を短期間で繰り返した結果、件の制限時間が決められたのであった。
 飲みに出るなら電車はNG、車での送迎必須。
ほとほと情けない話である、トホホ。

 ダウンタウンには行きつけの店が二軒ある。
 店休日や貸し切り営業など店側の都合やその日の気分、飲みたい酒類によって繰り出す場所を変える。
 これまでは直接店の前まで乗り付けてもらっていたが、最近は少しでも運動不足を解消すべく、
家人に降車ポイントを遠めにお願いし目的地まで歩く距離を増やしている。
 在京時は仕事でも遊びでも、外出すれば数十分歩き続けるなんて当たり前。
元々歩くスピードが速い上に帰郷後も立ち仕事が主だったため、これまで歩行を苦に思うことはほぼなかった。

 それがここ最近は諸事情から内職が糧となり歩く機会が減り、
更に四十路を越えての体力低下も加わって、階段の上り下りでは心の中で自分にエールを送って乗り切る始末。
 ネオン眩しい繁華街へ辿り着く頃には息がゼーゼー切れている。

 今宵も馴染みの店に行く予定だった。
 ところが目的地へ向かい飲み屋街を歩いていると、初夏から初秋まで足繁く通ったBARの入り口、
ガラス越しにいなくなったはずの馴染みのバーテンさんの姿が見える。
 座るカウンターは変更になった。

 聞いてみれば彼女、親会社が経営している別店舗の飲食店へ異動になったらしい。
 2、3週間に一度、現バーテンが休みの日に代打として店に立っているそうだ。
 以前のようにハイボールを注文する。
思わず見惚れるほど見事な手際、変わっていない。
 ウィスキーに関する知識も然り。
スモーキーな銘柄の場合、ライムによる味付けを控えスコッチ特有のクセを楽しませてくれる。
 テーブル席への気配りやバイトへの接し方もとてもスマートだ。
 僕の門限のことも覚えていてくれた。
シンデレラタイム、洒落たネーミング。
 おかげで最高の夜になった。

 ところで。
 僕はそのバーテンさんのこと、美人だなあと思っていたがそれが立証された。
 扉を開け入ってきた男性3人組。
その中の一人が彼女の顔を見るなり、こう言った。
「あ、あの美人さん。あんた今日ここなの?」
 僕の目に狂いはなかった。

再会

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  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-11-20

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