ひきさかれた、やくそく、とか、ちかい、とか、そういうだれかの、たいせつなものの欠片をあつめたとき、すこしだけ、やさしくなれた。
 しろいくまのこと、好きだから、おどらされてもいい、と思っている。コーヒーを買ってきて、と頼まれれば、よろこんで買いにいくのに、しろいくまは、いっしょに買いにいこう、というひとなので、ぼくは、ますます、しろいくまのことが、好きになる。いつも見ている、川が、いつもよりきれいに見えた日は、たいせつなひとのたましいが、ひきさかれた日。
(ねえ)
 こたえが、かえってこないよ。
 いつまでも、夢のなかにしずんでいるから、手をのばして、すくいあげてほしい。
 しろいくまが、どうしようもなく愛しいから、ぼくは、はやく、にんげん、という窮屈な檻から、かいほうされたい。花を摘むように、そっと、かぎをあけて。くるしいものは、どうか、そのままにしておいて。
 町のほころびに、気づいてるの。
 学校の音楽室から、赤黒い侵食がはじまっていて、ひとびとはみんな、目をそらして息をしている。
 醜悪。
 うつくしいもののたいはんは、うわべだけのせかい、だけれど、しろいくま、きみは、あいしてくれる?
 冬になったら咲く花もある。
 春を待たずとも。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-11-18

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND