あしたの空

あしたの空

さぁ、やり直しだッ

東雲と言うものは見たことが無い、
新聞やうわさでは聞いている。
だからどうしても、
どんなものかを確かめたくて
水平線が見える所までやって来た。
家からの眺めでは、
陽の出で明るくなりましたというくらいの
空でしか見ることができないから。

幼い頃に、海へ遠足に来た様に
ココは文句も言われず迎えてくれる。
遠くても、車を運転中に交差点から交差点までの信号しか良く見ない毎日だったから、
ココの眺めは大きな絵画みたいだ。
決して疲れない、忙しなく場面が変わる映画より静かに流れて時には気分屋みたいな突風が話しかけ、誰も居ない会話ができる所らしい、今はこうして星空を見つめて居る。

ただ遠くを眺めるだけで
ぼくの心は騒がしくなり、過去のことや
今のこと、これからのことを問答される。
星以外は、暗くて何も見えなくても
心の底は見通せると、眺めているのに眺められているココは、ぼくが来た訳を知っていたらしい。
話をしても、相談をしても、問いかけても、自問自答の場所になる。

壊れていて、もう動かないゼンマイ仕掛けのおもちゃの背中のツマミを何度も回しているみたいな、
"その過去はもう棄てて忘れなよ"と言う。
大切なおもちゃをずっと抱えて生きてきたから、動かないことはわかって居る。
ゼンマイを巻けば、過去がまた蘇るかも、やり直せるかもという未練と悔やむ心に気が付くと、水平線左側の空が薄明るくなった。
この瞬間が東雲と言うことを聞いていた、これから陽の出までの時間のことだろう。

ボーっと眺めていると、その速さはどんなモノにも例えられず真似することも難しい眺めだ。寝起きの目覚めより緩やかで、、勝手に身体から何かが抜けてゆく様な眼の前にある光景は、これから何をするのか、何処へ向えば良いのかを黙って伝えてくれている。
多くの事を抱え過ぎて居る今だから、
眼に入ってくる眺めは過去の遺物だと言っている。
それまでの振り返ってばかりの暮らしで、目隠ししながら歩こうとしていた自分を間違えだと教えてくれた。

今、この東雲から陽の出を向えて夕陽までは、昔からお天道様と呼ばれていたのも理解した時だった。

東雲と言うものを目の当たりにした瞬間、
"また話に来るよ、ありがとう……"
と告げて会社へ出すことを拒んでいた辞表をグローブボックスから取り出し、ハンドルを握り会社に向かう道へ、
"あしたから忙しくなるぞッ"と、
呟きながらサイドブレーキを戻した……。

あしたの空

あしたの空

あしたの道を、この空が教えてくれた。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-10-21

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