ライブ・は・ライブ

ライブ・は・ライブ

 演者のシャウト、オーディエンスの歓声。
二つが交わりあうとき、ライブハウスは熱狂の渦と化す。
 アーティストが求め、観客が期待するもの、それは一体感。
マスターベーションでは終わらせない、終りたくない。
 
「AreYouComeing?」
「Oh!Yes!」
ステージと客席で交わされ続ける、快楽のコール&レスポンス。
「Faster、Deeper、Come、Coming!」
 アンコールにて待ち受けるオーガスムに辿り着くまで。
愉悦に身を任せ多幸巻に包まれながら、エンディングまで走り続ける。

 最終目標へ向かうべく一曲一曲、それぞれのテーマに沿い酔いしれ高揚していく観衆。
 その中には、我を忘れ没頭し輪と和を乱すような行き過ぎたプレイで結果、
雰囲気を盛り下げテンションを落とし、リズムを狂わせてしまう輩や集団が少ながらず存在する。

 まずは集団編。
 イントロからAメロ―Bメロでサビ、一番から間奏を経て二番に進み、ギターソロへ入ると、
突如大声張り上げコールを開始する。
 この光景はバンド体系のグループよりも、シンガーソングライター、いわゆるピンで活動しているアーティスト、
中でもカリスマタイプの会場で、よく見受けられる。
 ギターやキーボードの音色がだみ声やがなりによってかき消され、冒頭から丁寧に紡いできたグルーブがねじれてしまう。

 歌声第一、楽器はついで。刺身のつまのようなもの。
こんな頭でないと、あんな場を乱す行動に出ようなんて考えられないはず。
 音楽雑誌へ寄稿されるレポート上で批判され、他のファンから苦情が相次いだため、
運営側からの自粛要請が公式ホームページへ出たにも関わらず、かまわず続けていた一団に対し、
会場自体への入場禁止が通達された事例まで存在する。
 オレオレワレワレな楽しみ方は、お家や車の中、または仲間内に限るし、そのほうが実は楽しかったりする。
 許される範囲を自分で考えしっかり意識する、これも公にて音楽を楽しむためには必要不可欠、かつ大切なこと。

 個人、もしくは二、三人単位の場合でも、同じような例が見受けられる。
こちらの場合はソロパートではなく、Cメロ、俗にいうサビにおいて。
 合唱するのだ、やはり声を張り上げ。
 当然だが客席にはマイクがない。その分、割れんばかりの声で喉が枯れんばかりに、叫びながら歌詞をなぞっていく。
耳障りな声、もはや絶叫に近い。
 僕が聴きたいのはボーカルの方なのに……

 AB両パートを通じて、流れを作り出しムードを高めいざメインへと、聴衆は心の中で気持ちをたぎらせのめり込んでいく。
胸の高鳴りとともに。曲に込められた想いに自分の境遇を重ね合わせ。

 それゆえ、口ずさむくらいなら構わないと個人的には思う。
さすがに周囲に響くくらいの声量ならば、気にする人も出てくるだろう。
 サビにおける合唱に関しては、アーティストによっても、是非がきっぱりと分かれるもの。
パフォーマンスの一環で、サビに入ると客席にマイクを向け誘うシーンも、動画などでよく見かける。

 結局のところコールにしても合唱にしても、ようはステージを邪魔しない、これに尽きる。
笑顔を迷惑顔に変えるような行為は慎むべき。
 開演前のアナウンスに耳を傾けず、
「もう俺何回も来てっから、参加してるから、ライブ。注意事項なんて言われなくたって、もう分かってし」
 その態度、その意識。直ちに改善したまえ、問題児たち。

 これまで挙げてきた公演を妨げるタイプ。
それらとは真逆の振る舞いで周囲の空気を変えてしまう、そんな例もある。
 題して、ノリノリご法度。
 僕と妹が長年憧れてきたロックバンド、その念願の来日コンサートに行った際の出来事。
 おそらく彼らは恋人同士、僕ら二人の隣の席でライブを観ていた。
彼女はこの記念すべき時間を大いに楽しみたい様子で、
奏でられる音色を全身で感じようと演奏に合わせ、思いのまま体を動かそうとしていた。

 しかし彼は許さない、彼女のノリを拒絶する。
 彼女が動き出すたび一言告げ制止していた。
それはバンド登場からアンコール終わりまで、終始何度も繰り返されていた。

 カップルの席は妹の隣だった。
 一席分離れていた僕も待望のコンサートを楽しみつつも、
立ち上がってはいるものの腕組みし微動だにしない彼氏の方を気にはなっていた。
 帰りの電車の中、興奮冷めやらぬ様子の妹に、
彼が彼女に何を呟いていたのか、聞こえていたのなら教えて、と聞いてみた。
 すると、それまで余韻に浸りニヤついていた妹の顔が、一瞬で渋く苦々しい表情へと変貌した。
妹曰く、
「あの男、恥ずかしいから動くなって言ってた。おかげでこっちまで醒めてくるし、最悪だった」
 周りの目を気にしていたようである。

 度を越えてはいけないが、はしゃいでなんぼの非日常空間。
特に海外アーティストの来日公演なんて、数年に一度、場合によっては十数年ご無沙汰なんてのもざら。
 また死去やトラブルなど様々な理由で、メンバーチェンジが頻繁に行われるのも洋楽バンドの特徴。
できればオリジナル編成を見たいのがファンの心情。
 更にはベテランになればなるほど来日自体、今回で最後だったんだと、時を経て後に知るケースも多い。
 現に僕ら兄弟が観に行ったバンドも、その公演がオリジナルメンバーによる最後の来日となってしまった。
 このように座席による運もある、それが現実。

 とはいえ、ライブは生もの。
何ひとつ問題なく楽しめるかどうかなんて、始まってみなければ、終らなければ分からない。
パーセンテージのような数字で判断するでなく、測り知れない五感を、気持ちを大事にしたい。
 これからも僕は生の迫力を楽しみたい、心のままに。

ライブ・は・ライブ

ライブ・は・ライブ

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-10-18

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