瞼の裏側

音澤 煙管

瞼の裏側

いつも自然にあごを、突き出している。


遠い昔の頃、
幼い眼で眺めた月の姿。
夜空というものは、その日までの自分の過ちも褒められた事も全て頭ん中を空っぽにしてくれるから、天気が良ければ顎が前を向いている。幻覚でも、自分の幼い眼に映った月の色を覚えているものだ。
環境が崩れた訳でも、自分が成長して心が汚れたからでも無いし夢で幻だった妄想の世界でも無い。
確かな月の色は、今でも瞼の裏側に焼き付いている。
今の月を見ながら、瞼の裏側と重なり合わせるようにパチクリパチクリと何度も馬鹿げた仕草をする。
そうすると、瞼の裏には今の月しか重ならない。
これはただの、今の月の残像かとがっかり幻滅してしまう。
夢か幻覚だったのかと、遠い昔の月を探しながら懐かしむ。
夜空へ吸い込まれる様に見渡す姿、
それは素潜りで深海の海底にある光る珊瑚でも追い求めているのに似てる。
眼は開いたまま、でも探す事は出来ない。眼を閉じると浮かんでくる、珊瑚ではなくボンヤリ光る海月の姿が、
ふわりふわりと泳いでいる。
周りにも浮遊しているプランクトンやバクテリアまでキラキラと輝いて揺れている。
夢や幻覚、残像では無い世界。
瞼の裏側には、不思議な世界がいっぱいあるからまた今夜も、夜空に顔を向けて顎を出し眼を閉じる。
この星の重力や、二足歩行の邪魔者たちに潰されそうになったらいつでも空の海底を目指す事にしている……。

瞼の裏側

瞼の裏側

全ては瞳を閉じてから……

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