森の夜会
森のつめたさにも、なれてしまって、ぼくらの星が、いつか、破裂したとき、あふれだすのは無数のいきものだから、宇宙のだれかが、ちゃんと両手で、すくってくれないと。(だれかって、たぶん、神さましかいないのだけれど)
せんぱいのひとさしゆびが、ぼくの、ひだりわきばらのりんかくを、なぞった。
ランプのあかりだけでは、こころもとないと、窓を開け放ち、月の光をとりいれる。むきだしの肌のうえを、夜のひややかな空気が、流れてゆく。せんぱいの、ゆびがふれるところにある皮膚から肉、臓器、骨だけが、一瞬、熱を孕む。ゆびが、過ぎ去れば、熱は、さめる。息をする、という無意識的で、必然的な行為を怠ったとき、あやしく微笑むのは、神さまだ。
(ぱぁん)
星が、割れる音を想像する。風船が割れるみたいな、軽い音を思い浮かべて、でも、この星には、あらゆるものが詰まっているから、もっと、鈍く、重い音かもしれないと思う。
せんぱいは、ときどき、よそ見をする。窓の外、月あかりのしたで、くまや、リスや、キツネや、タヌキなんかが、輪になっている。輪になって、なにかを話している。
せんぱいが、
「あしたもよく晴れるって」
と、まるで、彼らの会話を聞き取ったみたいに、呟いた。
ぼくは、せんぱいのからだに抱きついてみる。
せんぱいは、しばらくぼうっと、窓の外を見ていたけれど、やがて思い出したように、ぼくを抱き返して、それから、ねむった。
森の夜会